第15話

2人の過去(Ⅲ)
27
2020/05/02 02:50
2017年10月中旬
鈴木 莉生
……私のお父さん?
ふるえる声が止まらない。
天野 僚平
そう……
頭に一気に入ってくる情報量が多くて、いまだに整理しきれていない。
鈴木 莉生
浮気ってこと?
天野 僚平
うん……
お父さんは、浮気をしていた。
過去形で表現していいのかはわからないが、今はしていてほしくないので、過去形にしておく。
初めて知ったのはまだ中学生にもならない頃。もちろん、ショックだった。
天野 僚平
莉生りおちゃんの“初めて”になれないことを一生俺は引きずってしまうんじゃないかって思った。この苦しさからのがれるために風俗ふうぞくに行きたいって何回か思ったことがあって……
でも、こっちの方がショックかもしれない。
電話の最中さいちゅう、体育座りをしていた。膝に生暖かいを覚えて、膝を確認した。そこで初めて自分が涙を流していることを認識した。
鈴木 莉生
苦しさからはのがれられたの……?
泣いていることがバレたらなんとなく嫌で、ゆっくりめに話す。
天野 僚平
いや、そんなことなかった。行こうとしていた時は、自分の気持ちが少しでも上向きになる可能性を信じてた。でも、こうして莉生りおちゃんを苦しめる結果になった。すごく、すごく、後悔してる。ごめんなさい
どうしたらいいかわからない。
自分が他の人と過去に付き合ったから。それが苦しくて僚平りょうへいさんは風俗ふうぞくに行った。
自分のせいだ。
僚平りょうへいさんを責められない。
鈴木 莉生
もう、謝らないで……
そう言うのが精一杯だった。

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