第20話

僚平の愛
63
2020/05/02 02:29
2020年5月6日
鈴木 莉生
何も、してない、です……
胸がズキリとした。
天野 僚平
家出をした理由は教えてくれないのか?
いつの間にか合歓ねむの姿はなくなっている。気を利かせてくれたのだろう。
鈴木 莉生
まだ、言えない……
天野 僚平
身勝手じゃないのか?なんの前触まえぶれもなく急にいなくなるなんて
鈴木 莉生
……ごめんなさい
打ち明けるべきか迷う。
──でも、打ち明けて拒絶されたら?
──打ち明けてそれでも身勝手だと言われたら?
天野 僚平
俺が、原因じゃないのか?
鈴木 莉生
そんなことないっ
咄嗟とっさに出た自分の声が必要以上に大きかったことに気付く。
鈴木 莉生
あっ、ごめんなさ──
天野 僚平
……そうか。1年後、帰ってくるんだな?
鈴木 莉生
うん……
天野 僚平
正直、彼氏として、塾の元担当講師だったっていう教育者として、人として、説教をしたいことは山のようにある、今回の件に関してな。ただ、莉生りおもあの頃と違ってもう充分な大人だ。自分の意見はきちんとぶつけなさい。帰ってきたら、話は聞いてやるから説教を受ける覚悟くらいはしておけよ
僚平りょうへいさんの優しさに涙が出そうだった。でも、自分が涙を流していい立場でないことはわかっている。
鈴木 莉生
わかりました。ありがとうございます
それしか言えなかった。
天野 僚平
じゃあ、またな
鈴木 莉生
はい、電話に出てくれてありがとうございました
プチッ
大粒の涙がポタポタと床に落ちていく。
僚平りょうへいさんは信じてくれていた。
1年後に私が帰ることも、別れないことも、浮気をしているわけではないことも、全部──。
鈴木 莉生
……っ、うっうぅ……
園田 合歓
愛されてるな
その言葉は、今のこの状況の全てを把握している言葉だった。

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