鹿威しの音が、甲高く鳴り響く
椿が刺繍された着物が
やけに重苦しく感じられるのは
目の前に座る青年
夜桜凶一郎が原因他ならない。
こちら方は、見合いの場を設けた
実父と、私自身。
あちらは…夜桜凶一郎、ただひとり。
18歳になって4ヶ月程の彼が
ひとりで見合いの場にいるのは
きっと、昨年の夏に起きた
夜桜家の悲劇のせい。
そんな悲劇を知っているというのに
実父は、それを踏み躙るように
ある提案を持ち掛けたのだ
今の時代に…「攻略結婚」を
それに応じ、この料亭に来たはずの
青年は、物言わぬ置物のようだ
それをいい事に、
実父は土壇場で話し続ける
…事実、紅椿あなたは従順だ。
実父に留まらず、
その愛人や、子供たちにも
忠誠を誓うように仕立てられた
容姿は亡き母譲りで、美しい方らしいが
正妻の子であれど、
女だから優遇されたことはない
きっと…実父が、この見合いを
成功に導いたとしても
あなたの扱いは、どこでも同じ。
従順な女として、こき使われる
……突然、夜桜凶一郎が口を開いた
少し苛立たしげに実父が答えるが
紅椿が誇る、分家数。
それを駆使しての情報量を条件として、
今回の攻略結婚を取り仕切る予定だった
実父は、やけに狼狽えている
…突然の声と同時に
鹿威しが、また鳴り響いた












編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。