第10話

ゆっくりで何が悪い 翔平×樹
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2022/04/23 05:21
彰吾side
彰吾
しょへー、いつきー!
お片付けしなさーい!
学校から帰宅すると、
待ってましたかと言わんばかりに散らかりまくる部屋の中。
どうやら留守番をしている翔平と樹の仕業に違いない。
玄関の靴が2足分しかなかったから、これは確実案件。←
いつもお母さんが仕事で
力也くんも大学でいないときは、
翔平と樹だけ家に留守番することになってる。
まぁ理由としては、
幼稚園にいることが難しくなったから。
翔平
いつきー!
俺が洗濯物を取り込み始めたところで、
2人がいた部屋から翔平と思われる
大きな声が聞こえてきた。
俺の頭に嫌な予感が過ぎる。
…発作が起きた?
持ってる靴下なんて投げ飛ばして、
俺は派手に転げながら部屋に転がり込んだ。
俺の予想なんて軽く的中。
部屋の真ん中には、
小さく蹲り、パニックを起こしている翔平がいた。
翔平
いつきが…ハァ、いつきがいないの!
…ハァハァいつきが…いなくなっちゃった!
泣きじゃくり、過呼吸気味の翔平。
俺はひとまず呼吸を安定させるべく深呼吸を促した。
彰吾
大丈夫だよ翔平。
樹はトイレに行っただけだよ。
翔平
いつき…あいたい。
彰吾
じゃあ一緒にトイレ行く?
翔平
いつきにあえる?
彰吾
会えるよ。
行く?
翔平
いく。
俺は抱っこを求める翔平を抱え、
樹に会いにトイレに向かった。
着くとそこには既に用を足し終わった樹がいた。
翔平
いつき!!!!
…?
俺の腕から猿の如く器用に飛び降り、
扉を閉める樹に抱きつく翔平。
当の樹は、なんのことやら分かっていない様子だった。
翔平
なんで勝手に行っちゃうの!心配した!
……ご、…ごめん。
翔平
ほら早く部屋戻って、片付けの続きするぞ!
……。
コクッと頷き、先陣を切る翔平にトコトコと着いていく樹。
そんな彼の手をもう離すまいと翔平が強く握っていた。
さて、
なぜ2人は幼稚園に行けないのかという問題に戻る。
まぁそれは先程ご覧になった通り。
翔平の異常すぎる心配。
樹の極端すぎる無口。
「分離不安症」
これは翔平が2歳の時に診断された精神疾患。
愛着を持った相手が自分から分離することで、
大きな不安や恐怖を抱いてしまう。
その愛着を持った相手というのが、
翔平だったら弟の樹だということだ。
誘拐されたのかもしれない、
事故に遭ったかもしれないなど
色んな不安が分離することで生じる。
もちろん治療もしている。
行動療法という治療法。
だがやはりパニックは起きてしまうのだ。
それはまだ避けて通れない道なのだ。
対する樹は「吃音」という発話障害を患っている。
簡単に言えば、
流暢に話すことが出来ないということだ。
言葉に詰まったり、
分かっているのに言葉が出なかったり。
しかし多くの場合は自然と軽くなっていく。






そしてここで、
さっきの「幼稚園に行けない」の問題に戻る。
元々は2人とも幼稚園に通っていた。
翔平の治療兼ねて、幼稚園に通園させるのは
とてもいい社会経験になっているはずだった。
はずだったのだ。



でもそんなのただの俺たちの勘違いにすぎなかった。
上手く話せない樹は虐められていたのだ。
馬鹿にされ、笑われ、貶されて。
それが原因で、
前までは非流暢ながらも
一生懸命に話してくれていたのに、
それからは話すことさえなくなってしまった。
所謂、トラウマってやつ?
だから母さんは、
症状が落ち着くまでは
幼稚園には行かせないでおこうって判断を下した。
自然と軽くなっていく道は、
敢え無く狭まってしまった。
翔平
しょーごくんもてつだって!
彰吾
ん?片付け?
翔平
うん!
彰吾
いいよー、って全然片付いてないやん!
ほら!早く!
このロボットさんは…
これらの理由から2人は今幼稚園に通っていない。
…通えていない。
翔平
ちーがうよ!しょーごくん!
ここがこのこの、おうち!
……そ、そ、そうだよ。
彰吾
あーごめんごめん…
おーいこら!
お前ら、サボってんじゃねぇーか!
それでもコイツらは俺の大切な弟。
大切な家族。
なにがあっても、どんな病気を患ってようが、
それは一生変わることのないこと。
見捨てたりなんてするわけない。
そんなこと出来るはずがない。
コイツらはコイツらなりにゆっくり成長してる。
だから俺たちは
その成長をゆっくり見守っていけばいい。
焦る必要なんてない。
ただ、ゆっくりなだけ。
ただ人よりちょっと遅いってだけなんだから。
next…

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