ピンポンピンポン(ほ
"お待ち下さ〜い"
「はい。」
・
・
"あら、天堂さん。"
「お久しぶりです。」
"こちらの方は?"
「友人です。」
俺は里帆姉に一言話せと言わんばかりに視線を送る。
"あ、初めまして加野里帆と申します。今日はお話があって来ました。"
"お話?"
"あんた、初めての顔だねぇ"
「いま七瀬さんは?」
"仕事に行ってるわ。もう少しで帰ってくると思うけど…"
"七瀬に用だよね?"
「いや、ご家族様に…」
"あら、じゃあ中に入って?"
「ありがとうございます、お邪魔します。」
"お邪魔します…!"
運がいいのか悪いのか…七瀬は今居ない。
でもご家族に話す為には良いのかもしれない。
"で、お2人さんどうしたの?"
「本当に申し訳ありませんでした。」
俺は深く頭を下げる。
隣で里帆姉も頭を下げている。
でも…七瀬の家族はキョトンとしていた。
"頭を上げて?急にどうしたの?"
「別れた理由で…」
"それ、僕達聞いてないんだよ。"
"聞いてもごまかされて…"
普通、不倫されたって言ったら家族は心配して、支えてくれるだろう。
それなのにアイツは家族にも言わず、1人で悲しみを抱え込んでいたのか?
なんでだ、なんでアイツは1人で抱え込むんだ。
別れた理由を隠す意味なんて無いのに。
"浬が不倫したんです。"
「…」
里帆姉は周りの事などお構いなく急にぶっちゃけた。
"不倫…?"
"天堂さん、が?"
「はい…」
"なんで、なんでだよ!"
「すみません…」
思っていた通り、俺は声を上げて怒鳴られた。
愛する娘が不倫されたら怒るのは突然の事だ。
俺は周りの全員を傷つけてしまった。
裏切ってしまった。
…すると、里帆姉が話し始めた。
"私、実はその浮気相手の姉なんです。"
"え?"
何暴露してるんだ、なんでお前がここに来てるんだってなるだろ…
"その私の妹が拡張型心筋症っていう病気で…"
七瀬の家族は酷く驚いている。
俺がこの病気で恋人を亡くしている事を知っているからだ。
"それで昔、浬が重い白血病になったんです。危ないところまで行ったんですが、その妹と移植ができて浬の命が救われたことがあって、"
それから里帆姉は淡々と確実に話して行く。
七瀬の家族は真剣に相槌を打って聞いてくれている。
"そんなことがあったんだね…"
"誰も悪く無いじゃ無いか。"
「いえ、僕が一線を超えたのは事実なので…」
"それはしょうがないんじゃないかな?"
"天堂さんは妹さんの願いを叶えたんだ。"
なんて優しい人達なんだろう。
‘誰も悪くない’この言葉は俺が1番欲しがってたのかもしれない。
でも俺は沢山の人を傷つけ、苦しめた。
七瀬やご家族、姉貴や里帆姉、循環器内科の人達、そして志帆さんまで。
この傷つけた心は消せない。
七瀬にとってはどうしようもないくらい深い傷を負っている事だろう。
俺はもう一度七瀬と話して謝りたい。
そう思っていたらタイミングが悪く、一本の電話が鳴った。
病院からだ。
「すいません、失礼します。」
俺はご家族に頭を下げ、電話に出た。
"天堂先生、志帆さん急変です!"
「?!」
"今鹿児島ですよね、早く帰って来てください!"
「他の先生方は?」
"田中先生がいらっしゃいます!"
「じゃあ俺が帰るまで田中先生に志帆さん頼んだ!」
"分かりました!"
こんな時に志帆さんが急変…
今俺がどれだけ急いでも間に合わない、田中先生に賭けるしかない。
いや、田中先生は有名な優秀な医者だ。
絶対救ってくれる、、。
"浬、志帆がどうしたの?"
里帆姉は心配そうに俺の顔を覗き込んで聞いてくる。
「急変した。」
"嘘…"
"天堂さん、行って来なさい。"
志帆さんの命は絶対守らないといけない。
でも…でも俺はもう一度七瀬に会って謝りたかった。
少しでも良いから最後に会いたかった。
"浬、七瀬さんと話したかったんでしょ?"
俺の思っている事が分かったのだろうか、里帆姉が聞いてきた。
「…あぁ、もう一度会って謝りたかった。」
"じゃあ私に任せて。"
「え?」
里帆姉に任せる…?
"浬が今思ってる事、私分かるから。だから私から伝えておく。"
「良いのか?」
"そのかわり、志帆を助けてよね。"
「分かった。」
自分のことは鹿児島に残る里帆姉に任せて、俺は1人、全速力で北海道に向かった。
どうか…どうか‘志帆さんが無事でありますように’心からそう祈って。
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。