第7話

心臓がバクバクした件
493
2020/03/10 10:52
5分後
卯月 心春
卯月 心春
(私が甘かったわ)
心中穏やかではない私
誰かの心配をしてる、とか、そういうのではない
いつもなら花恋を見て、穏やかな波を打つ私の心の海は、今は荒れに荒れていた
いや、イライラはしちゃダメ。キレたり怒ったりしたら負けだから
ずっと自分に暗示をかけるように言い聞かせ、肩の力を抜いた
さっきまで続いた謎の嫌がらせの仕打ちを思い出す
私が綺麗に並べようとしたら、無言で私の机の上に冊子を置いていく
しかも、何故か名前が書いていない
あーいーつーらー!
ひたすらに、心の中で絶叫するという技をやってのけた
シャーペンで書いてたのを消したんだな、とか思いつつ、かろうじて残ったシャーペンの跡で名前を特定し、優しい私はそれに沿って書き直してから、並べた束の中に投入
今までもそんな感じだったから、まあ慣れたといえば慣れた
数えてみたところ、3人出ていない
1人はまだやってて、やってる人に答えを見せているのが1人
今、机にかじりついて必死にシャーペンを走らせてるね
まあがんばれーと、適当に応援しつつ、残った1人の方を見た
女子たちに絡まれている、奴を
クラスメイト 4
彼女はいるの?神野くんっ
クラスメイト 2
誕生日教えてよー!何か作ってくるからさ
クラスメイト 1
好きな人は?いる?いたりする?ねねね
私の真横の席で、まるで転校生相手にするような質問攻めをしている
ただし、去年1年間彼と同クラだったであろう女子や、私と花恋はその輪の中には入っていない
同じクラスになったのがよっぽど嬉しかったんだろなーと、ほっこりするほど私は温厚ではない
卯月 心春
卯月 心春
(あの人たちのせいで、神野くんは身動きが取れてないんだよね)
おかげで神野くんの課題は、1つとして提出されていない
座っているせいで、四方八方が女子たちにより塞がり、お陰で立ち歩くことができないという状況
神野くん、相当迷惑そうだなぁ
でも、助けてやるほどお人好しじゃないし、何より女子の皆様から獲物を見つけた獣同然の睨みを利かせられるのは御免だ
まあほとぼりが冷めるまで待ちましょうと、途中で放棄していた作業に再度取り掛かった





☆.。.:*・°☆.。.:*・°☆.。.:*・°☆




卯月 心春
卯月 心春
あと1人だー
岩見 花恋
岩見 花恋
そうだねー
間延びした声で、花恋と私はそれぞれ椅子にもたれかかる
2教科・・・・・・いや5教科全てにおいて、提出していないのは1人だけ─────神野くんだけになった
ああ、未提出=女子たちが囲ってる、ってことはわかるよね
きゃあきゃあうるさいのよ、これが
鼓膜破れそうだな・・・・・・って思っちゃうくらい
さて、ここで二つの選択肢が頭の中に浮かんだ
その1、この状況を改善するため、女子たちに注意をする
その2、このまま傍観し、由紀先生に怒鳴られる
・・・・・・正直、どっちも嫌だ
けれど、二つを天秤にかけて、どちらを優先すべきかはさすがに分かる
・・・・・・いいよ、十分仕打ちを受けてるんだから
がたっと音を立てて立ち上がり、ゆったりとした歩調で彼らに近づいた
卯月 心春
卯月 心春
ねぇ
クラスメイト 2
ん?
クラスメイト 4
地味子がなんか用?
私が声をかけた時、こちらを振り返った少女たちの目は、明らかに怒りが含まれていた
残念だけど、この程度で怖気付く私ではない
卯月 心春
卯月 心春
あのさ、そろそろ神野くんの課題、提出させなよ
かつてこれほどまでに、心臓が脈打ったことは無かった
教室が静まり返り、私に注目が集まっているせいでふるふると震えそうになる手を、胸の前で握りしめた
侮蔑の目で見てくる彼らの眉間に、更に皺が刻まれる
クラスメイト 2
は?お前ごときが何口出してんの?
その言葉を聞いた瞬間、呆れと脱力感で体中の力が思いっきり抜けた
ああ、こいつら、人の気持ちすら考えられないんだな
これ以上何か言う方が馬鹿らしい
卯月 心春
卯月 心春
・・・・・・もういいよ。出しゃばってごめん
くるりと背を向けると、そが合図だったようで、わっと悲鳴に近い声が背後で湧いた
・・・・・・何故か男子や残った女子から、同情の目で見られているのは気のせいかな
まあ由紀先生が来た時に怒られればいいや、とか思っていると
私が席に着こうとした時、ピタリと悲鳴が止んだ
何があったんだろ、とか思いながら、立ったまま神野くんの方を向く
彼は、女子たちの輪をぬけて、私の方へ来ていた
卯月 心春
卯月 心春
(ん・・・・・・?)
きょとんとした顔で彼を見ていたが、本人は課題を手に、私の前で止まった

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