食事も終わり、エントランスに集合
・・・・・・食事が班ごとじゃなくてほんとに良かった。ほんとにほんとに
だって、男子二人と合わなくて済むんだよ?まあ今から会うけどさ・・・・・・
まだ心の準備が出来てないのっ!
本音を言えば、もう今日一日は顔を合わせずにいたいくらいなんだけど・・・・・・流石にそんなことできない
花恋は私に『今日は男女別にする?』って聞いてくれたんだけどね?
でも、樹里に言うのは、今日しかないんじゃないかなって思うの
返事を伸ばしっぱなしにするにつれて、言いにくくなって来ると思うから
だから、樹里に会って・・・・・・二人きりで、言う必要がある
すーっと息を吸い、肺の中が空っぽになるほど、大きく吐いた
緊張からか、ドキドキと心臓が高鳴る
まだ会ってもないのに・・・・・・!こんなんじゃ、今からどうするの、私!
ぺちぺちと自分の頬を叩いて気合を入れていると、後ろから聞き慣れぬ声で名前を呼ばれた
くるりと後ろを振り返ると、昨夜エレベーターで一緒になった男子生徒が2人、立っていた
どこかそわそわしたように落ち着きがなく、頻りに視線を左右へ泳がしている
私になんの用事だろ?
ってか、なんで名前知ってるの?
にひひと気味の悪い笑みを口元に湛えながら、2人は声を潜めながら話している
失礼なのは重々承知で言うけど・・・・・・顔、ほんと大丈夫?
横でスマホをいじっていた花恋が、なにか気づいたのか私の方を見た
自然と花恋の視線は私が向いている方────男子生徒たちに移る
すると、一瞬むっと顔を顰め、花恋は私の手を取って歩き出した
落胆したように顔に手を当て、空を仰ぐ花恋
ってか、どこまで行くの、これ
あの人たちが居るにしろ居ないにしろ、そろそろ戻らないと、集合時間がやばいと思うんだけどなぁ
未だに足を止めない花恋に聞こうとすると、不意にぽんっと肩に手を置かれた
全く予知していなかったことに、反射的にまた変な声が出た
・・・・・・なんか、デジャヴを感じる
そろっと体ごと回して後ろを見ると─────無表情のまま佇む樹里がいた
もちろん、右手は私の肩近くに浮いていて、今の衝撃は樹里によるものだと一目見てわかる
どうにかして笑顔を作り、挨拶を返す
ぎこちなくなってしまったかもしれないけど、これが今の私に出来る精一杯の対応
─────どうしても、昨日のことを思い出してしまう
断らなきゃいけない。でも、今は周りに沢山人がいるし、言えない
解散してからどうにかして呼び出さなきゃ・・・・・・
神か、悪魔か───────もしくは死神か
由紀先生の指示という名の脅迫は、今の私にとっては闇の中に現れた救世主並みに有難いものだった
よかった・・・・・・とりあえず樹里から解放されそう
花恋が察してくれたのか、私の手を握り直して、踵を返した
樹里の横をすり抜け、その後ろにひっそり居た葵に挨拶する暇さえなく
スタスタと早歩きし、元々いた場所までたどり着く
そこに着くまで、周りの騒がしさは0どころかマイナスになっていた
由紀先生の脅しがよく効いたらしい
今更ながら、由紀先生の恐ろしさを思い出し、それを救世主と思った私は余程樹里に言いたくないのだなと、実感した
・・・・・・っていうか、地味子解除したこと、樹里何も言ってこなかったな
許してくれた・・・・・って捉えていいのかな?
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!