目を細めて、私は女の子たちに囲まれながら無表情を崩さない神野くんを眺めた
どの角度から見ても、かっこいいよね
って、今はそんなにこと考えてる場合じゃなかった!
花恋が戻ってきてから話しかける・・・・・・っていうのもあるけど、花恋を待ってたら先生が戻ってきて話せず終いだろうし、何より花恋から「こら」って可愛く怒られそう
うう・・・・・・朝礼と終礼のことだけだもんね?
委員長と副委員長は、それぞれどちらかが朝礼と終礼を担当しないといけない
前に出て、挨拶や提出物、欠席者の有無を確認するの
これもあるから、目立ちたくない私は委員長をしたくなかったのに・・・・・・はあ
ため息をついてばかりだけど、その間にも容赦なく時間は経過の一途を辿っている
物理的な距離はほんの1mくらいなのに、とっても遠くの場所にいる人、だなぁ
話しかけられてもガン無視を決め込んでいる神野くん
為す術なく、無言で見つめていると、椅子に座ってずっと俯いていた彼が顔をあげ、私の方を向いた
吸い込まれるような濃紺の瞳に、私が映った
再び、沈黙
ただ、女の子たちは、神野くんが私の方を見ていることに気づいていないらしく、一心不乱に話しかけている
・・・・・・気づくな。お願いだから気づかないで
そんな私の願いは、瞬時に打ち破られることになる
自分に用があると思ったのか──というか用があるけど──、神野くんは突然立ち上がり、女子たちの輪を突っ切って私の方まで来た
そして集まる注目という名の視線
やめて!視線が痛い!穴が空きそう!
再び脳内絶叫をしていると、神野くんは表情を一切崩さないまま、口を動かした
語尾がどんどんと小さくなっていく私に対し、彼は小さく首を傾げた
どことなく柔らかな声色で聞いてくるので、緊張が少し和らぐ
・・・・・・うん、朝礼と終礼以外に、打ち合わせすることは無いね
一度頭の中で整理し、間を空けてから私も口を開く
卯月、と苗字を呼ばれ、一瞬ドキリとした
名前、覚えててくれたんだ・・・・・・黒板を見たような素振りは無かったし
去年なんか、苗字ですら呼ばれなかったからなぁ。花恋以外は、誰も彼も「地味子」ばっかり
ちょっと新鮮かも
素っ気なく返した後、神野くんはゆったりとした足取りで黒板の方に向かった
黒板消しを持ち、黒板に書かれた文字を消していく
あ、そっか・・・・・・花恋が書き写していたし、もう消していいんだ
神野くんを追いかけ、私も余った黒板消しで掃除をする
私たちの様子を見て、少し危機感を感じたのか、今までとは違うヒソヒソとした声が聞こえた
────ねぇ、なんかあの二人さ。さっきから仲良くない?葵くんが立候補した時とか
────いやいや、無いでしょ。地味子だよ?
────うーん、だよね!たかが地味子だし、気のせいか
────それに花恋ちゃんがいるからじゃない?可愛い子いないのに副委員長とかやりたくないでしょ〜。あの子、可愛いって去年から噂だったし
────まして地味子と2人とかは絶対嫌だわ〜
・・・・・・ほら、私は結局、地味子だから
自ら進んでやることすら認められず、かといってやらなければ嫌な役を押し付けられる
そして・・・・・・絶対に馬鹿にされる。貶される
ぎりっと唇を、血が出るかと思うほど噛み締めた
怒りが湧いた
許せない・・・・・・今の言葉は、絶対に
私が黒板消しを動かす手を止めたのが気になったようで、私の横で作業する神野くんは、私を訝しむように見た
でも私の視界には、そんなの入っていない
気づけば、勝手に口は動いていた
今の今まで、陰でコソコソと喋っていた女子生徒が声を漏らした
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。