その後、由紀先生がやって来たことで、私たちは整列せざるを得なくなり、その後各部屋の鍵が配られた
荷物整理して、30分後にエントランスに集合
基本班行動なため、クラス毎に目的地まで移動したあとはほぼ自由
この後、少し離れたところにある森にハイキングに行くんだけど、迷子にならない前提で班行動が許されてる。もちろん、他の班と合同で回ることも可能
エレベーターの途中まで一緒に向かい、途中で別れた
私と花恋は5階、樹里たちは6階の部屋だ
どうやら二人で一部屋らしい。でも、他の班と合同で・・・・・・つまり、4人で一部屋のところもあるみたいだけど
エレベーターを降りた私たちは、渡されたカード型のルームキーに記された番号を確認する
エレベーターの前は少し広い空間になっていて、そこから左右二手に分かれている
ちょうど壁に、部屋番号の案内があったから、それに沿って廊下を進んだ
『5012』と金色の数字の飾りが付けられた黒塗りのドアを見つける
手に持ったルームキーを、ドアレバーの上にあるセンサーにかざすと、ぴぴっと音がして解錠した
ルームキーを持ち直し、その手でレバーを押し下げ、ドアを開ける
中は、とても2人で使うような部屋の広さではなかった
広さは私たちが使う教室より、少し大きいくらい
学生にはとてもじゃないけど、どう考えても敷地面積をとりすぎだ
まあ、ホテルを見た時から思ってたけどさ。でも改めて目にすると、つい呆然としてしまう
靴を脱ぎ、壁際に寄せてからカーペットに足を乗せた
左側が特に広くなっていて、2人でも余裕で寝れるくらい大きなベッドが2つ、横並びになっていた
靴を脱いでいる花恋の返事を聞き、私は重かったボストンバックを床にどさりと落とした
あまり中身の入っていないリュックサックも降ろし、天辺にある取っ手を持った
そのままズルズルと2つとも引っ張り、んしょっと掛け声と共に傍に座り込む
なんだか疲れたなぁ。今から本番なのに
無限に湧き出そうな欠伸を噛み殺し、私はボストンバックのチャックを開けた
財布やスマホ、モバイルバッテリー、タオルなどを、リュックサックに詰め込む
ハイキングだし、ちゃんと写真だけは撮っときたい!思い出って大切だし
水分補給も必要だよね・・・・・・と思い、リュックサックの両側にある編み編みのペットボトルホルダーを確認する
うん。ちゃんとお茶がある。まだまだ量はあるし、買わなくてもいいかな
他にも忘れ物がないかなど、今更ながら整理していると、部屋のチャイムが鳴った
ぴんぽん、と軽快なメロディが流れる
ちょうど手に持っていたスマホで確認すると、解散してから約20分が経過していた。確かに、もう片付けが終わっていてもおかしくない
花恋はまだ手が離せない状態なので、私は立ち上がって玄関に向かった
ひとまず、少しだけドアを開けて隙間から外を覗く
見慣れた学校のジャージと、ちらりと見える顔を見て、ほっと安心の吐息をついた
大きく扉を開け、2人の名前を口にする
黒のリュックサックをかるった樹里が、私の言葉に眉をひそめた
2人を招き入れ、ドアを閉める
花恋は私たちが会話している間に片付けが終わったのか、ボストンバックのチャックを閉めていた
わっすれてた〜!由紀先生は5分前行動とかじゃ絶対許してくれないんだよ!それこそ、10分前でもギリギリなくらい!
私が悟ったと同時に、花恋は「あ」と、はっと思い出したように、一瞬固まる
日本語なのか日本語じゃないのかわからない言語を口走り、一度顔を見合わせた私たちは、自分のリュックサックを引っ掴み、玄関にいる葵たちを手で押して部屋を飛び出した
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!