初めに結論から言いましょう
あの後、話し合いなんてできませんでしたよ、はい
樹里の人気度は私の思った以上に高かったらしく、拒絶されてもなお諦めずに、彼らは七転八倒の心意気で飛びかかってきた
その度に樹里の毒舌と、花恋と同じ類いを匂わせる天使の笑みによって瞬殺されてたけど
とまあ、結局由紀先生が戻ってくるまで、一方的な虐殺ならぬ、一方的な悪意のない攻撃によって、彼らは打ちのめされる羽目になった
その後、ずるずると重い体を引きずって、皆自分の席へと帰って行った
由紀先生はそんなこと気にしてないようで、悠然と教卓と黒板の真ん中に立ちか愕然としている生徒たちには触れずに話を進める
頷かなければ殺されると思うほど、低い声だった
ぴしっと空気という空気が張り詰め、殺人犯が声を発しているような感覚に襲われる
・・・・・・うん、失礼なのはわかってる。わかってるけど!
それくらい・・・・・・畏怖を覚える声色なんだよ
生徒の数人がこくこくと震え気味に頷くと、由紀先生の許容範囲にギリギリ入ったらしく、由紀先生は言葉を続けた
教室に来る際に持って来ていた冊子の束を、先生は前から配り出した
花恋から回ってきた2冊の冊子の一つを後ろに回す
紙を10枚程度を重ね、端の方をホチキスで止め、ホチキスの跡を隠すようにテープを貼っている
中学の修学旅行の時もこんな感じのしおりだったなぁ・・・・・・なんだか懐かしい
しおりが全員に行き渡ったところで、全員がぞろぞろと移動を始める
私と花恋、そして神野くんは席がかなり近いので、立ち歩く必要もなかった
3人で冗談を言い合いながら、私と花恋は机を動かし、隣同士に
それを見て、樹里は私の机の横に膝を床に着けて座り、神野くんは無言で机を動かして、私たちの向かいに着けた
樹里の椅子がないことに気づいたのか、私の後ろの席の男子生徒が「自分は前の方にあるやつ使うから。その周りに集まるんだ」と言って譲ってくれた。有難く使わせてもらう
話し合いの環境が整ったところで、暫しの沈黙
けらけらと笑う樹里に、くすっと思わず笑いが零れる
こんな風に、樹里は冗談を言ったり、ふざけ合う仲だ。ずっと前から
ただ、いつまで経っても地味子の解除許可が降りないのは謎だけど・・・・・・というか、段々と取り締まりが強化されてる気がする
私と樹里の会話に、ぴくっと反応した人がひとりいた
動揺したように、顔に戸惑いが浮かんでいる
私の名前?
しどろもどろになる神野くんを、私は不思議そうな顔をして覗き込む
少し俯き加減で、神野くんは蚊の鳴くような声を漏らした
恥ずかしいのか、指の背で口元を覆い、心做しか顔も少し紅潮しているように見える
呼び捨てにされることに慣れてないのかな・・・・・・?それとも、面と向かって話す機会が無いとか?部屋が暑いわけではないのだし
いつも一方的に話しかけられるもんなぁと勝手に自己解決し、私は肯定の意味を込めて首を縦に降った
呼び捨てでいいよ、と言おうとしたら、樹里が急に私の言葉を遮るように割り込んできた
むぅ・・・・・・なによ、もう
ぺしっと頭にチョップを喰らわせると、「いてっ」という声と共に、じろりと軽めに睨まれる
叩かれた頭頂部を労わるように擦りながら、不機嫌そうに頬を小さく膨らませた
・・・・・・幼稚園の頃、まだ地味子じゃなかった時期にも、こんな風に男子と会話すると事ある毎に阻害してきたなぁ
私にちょっかいばっかり掛けてきてたし。樹里はその頃から変わってない・・・・・・
私のしおりを横から覗き込む樹里
自分の持ってないのかな?
すまなさそうに手を合わせる樹里に、私はしおりが良く見えるように開いたページを樹里に向けた
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。