第8話

何故だか感謝された件
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2020/03/10 15:00
課題を提出しに来たのかなーと思って、とりあえず表情を崩さないまま、手を差し出した
課題をくれという意味を込めて
だけど、それを渡すのを少し躊躇っているようで、彼の瞳が揺れた
んんん?
早く渡せばいいのに。こっちはできれば怒られたくないんだもん
沈黙には耐えられない性格の私は、中々寄越さないのに不信感を抱きつつも話しかける
卯月 心春
卯月 心春
課題、ちょうだい?
じーっと彼の瞳から目を離さずに言う
すると、我に返ったように、彼はごく普通に課題を私の手に乗せた
うん。これで全員だね
受け取った冊子を、並べ終わった冊子の束の間に入れ、出席番号順に並んだことを確認しようと、もう一度束を両手で掴む
─────掴もうとしたところで、ふっと私の耳に息がかかった
神野 葵
神野 葵
助かった。さんきゅ
私にしか聞こえないくらい小さな声だったせいで、その温かな吐息が明確に感じられた
ぱっと振り返ると、神野くんは花恋の所へ行き、課題を提出していて
でも、さっきの私みたいに躊躇うことはなく、淡々としていた
卯月 心春
卯月 心春
・・・・・・・・・・・・・・はい?
私の口から零れたのは、間抜けな一言だけ
んー。まあ感謝されたってこと、なのかな?
私、特に何もしてないけど。注意するのも中途半端になってしまったし
別に感謝されることでもないのになぁ・・・・・・
まあ、いっか
改めて確認しようと、椅子に座り、冊子を掴みかけた手に力を入れ直した

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