大浴場への道のりを歩きながら大きなため息をつくと、心配そうな花恋が言う
言えない。口が裂けても言えない
樹里から告られてキスされました・・・・・・なんて言ったら、花恋が怒り狂っちゃうかも
あのキス事件の後、やたら艶々とした花恋と、対照的にげんなりと疲れきった様子の葵の2人と無事再会できた
ちなみに、なんでそんなに毛艶がいいのか、花恋に聞いてみたが、上手いことはぐらかされてしまったので、結局分からずじまい
葵は葵で、何だか話しかけるなオーラが出ていたので、遠巻きに見ているだけに留めた
そうそう・・・・・・あれから、樹里とは会話をしていない
なんと言うか、まあ私から避けてるわけなんだけど
あんなこと言われて、ファーストキスまで奪われちゃったんだよ?!
ファーストキスは好きな人と・・・・・・とか、ちょっとロマンティックなこと考えてたのに
樹里のおかげでぶち壊れ!まったく・・・・・・
でも、好きって言われて────改めて考えてみると、嫌ではなかった
だけど、それで嬉しいのか、OKしてもいいのか・・・・・・と問われれば、躊躇ってしまう
後ろ髪を引かれるような感覚
OKしてしまったら、それこそ後悔するような
でも、何なのか分からなくて・・・・・・ずっと一人で悶々としていた
樹里と話してないこと、多分花恋にはバレバレだろうなぁ
でも敢えて聞いてこない。合宿終わって暫くしても話してないなら・・・・・・聞いてくるだろうけど
もういっそ、花恋に相談した方がいいんじゃないかなって、私は思ってるけど
──────思ってるけど、この胸の中に残って消えない、しこりの正体がわからない
正体を知らなくちゃ、先に進めないのかな・・・・・・
樹里、と名前を聞いて、一瞬ドキリとする
花恋に心の内を見透かされたかと思ってしまった・・・・・・
でも意図としては違うことに胸を撫で下ろし・・・・・・たのも本当に一瞬で
ぶるっと身震いしてみせると、横を歩く花恋は愕然としたような、でも予想通りとも取れる複雑な表情をしていた
花恋さーん?
ぐっと、何かに情熱を燃やしている瞳を私に向けた
並々ならぬ覚悟と、そしてそれを上回る好奇心が溢れている
何に覚醒したんだろう・・・・・・と、私が首を傾げると、花恋は右手で私の左手をがっちり掴んだ
ん?
大浴場じゃなく、部屋にあったバスルームで入浴しようと思っていた私の作戦は、花恋の力によって叶うことは無かった
というか、有名人ってなに?!
私、目立ちたくないんだけど・・・・・・ってか地味子やめただけでそんなに皆、驚くかな?!
一人、やる気満々な花恋に連れられ、私は強制的に大浴場に行く羽目になってしまった
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!