前の話
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「中也、ちょっと話したい事があるんだけど。」そう言われ、俺は太宰と喫茶店に訪れた。
「なんだよ?話って。」
「いや〜、この前君がかわいらしい女性と歩いてるところを偶然見掛けてしまってねぇ。」
”かわいらしい女性”…
「それがどうした。」
「君、彼女居たんだ。」
「は???…話の流れが速すぎんだよ。その”かわいらしい女性”って言うやつの特徴とか言ってもらわねぇと。」
俺はつい眉間に皺を寄せる。それに対して、太宰は相変わらず薄気味悪い笑みを浮かべている。
「否定しないってことはやっぱそうなんだ。」
ぶっ飛ばしてぇ…
「部下かもしれねぇだろ。」
「んーっとねぇ、特徴は肩甲骨辺りまで伸ばした焦げ茶色の髪の毛。それから、身長は中也より低くて小柄。あ、メガネを掛けてたなぁ。」
「っ…」
それは間違いなく俺の彼女だった。
「うふふ。」と太宰が小さく笑う。
「知ってどうするつもりだよ。」
今から俺の彼女の存在を否定しても否定するだけ無駄だ。太宰のしたい事は直接口から聞かねぇと分かんねぇ。
「何処まで進んだのかなぁって思って。」
「そんなことを聞くためにここに俺を呼んだのか?」
「そうだよ。たまには恋バナもいいじゃない?」
太宰は至って真剣である。
「はぁ……」
「で、何処まで進んだの?」
「は…ハグ…」
「え?」
「ハッ!グッ!」
「えぇぇぇぇぇ!!」
此奴…噛み殺してぇ…
「なぁ、帰っていいか?」
「だめっ!え?ねぇ、ハグ?君正気?付き合って何ヶ月目?」
「4ヶ月…」
「4ヶ月でそれは遅すぎ!ねぇ、もっと積極的になりなよ。」
「手前ぇにとやかく言われる筋合いはねぇよ。てか、そんなに言うなら手前ぇはどうなんだよ。」
流石に太宰の煽りに冷静に対応出来なくなってきた。彼女のことまで馬鹿にされてるようで頭にきた。
「えぇ?私なら1日で全部終わるよ?」
「あ、聞かなきゃ良かった。」
此奴の方こそ正気じゃねぇだろ。相変わらず女癖が悪い奴だ。
「君はキスしたいとか思わないわけ?見るからに性欲強そうなのに。」
「チッ…一言余計だ。思わないわけではねぇよ。ただ、相手が恥ずかしがっちまうからな。無理矢理するわけにもいかねぇだろ。」
「へぇ…君意外とそういうとこ気にするんだね。」
「さっきから手前ぇは俺を何だと思っていやがる。」
「恥ずかしがり屋さんなのねぇ。かわいいじゃない。」
「おい。ろくでもねぇこと考えんじゃねぇぞ。」
太宰が俺の彼女を取ったら、重力で潰してやると思ったが、此奴には異能が効かない。
「まぁまぁそんなに睨まないで。恥ずかしがっちゃうのは君が焦らすからじゃないの?」
「ん…そ、そうかも…な…」
「瞬間的にすれば、恥ずかしがる余裕もなくなると思うよ。」
「確かに…」
その後少しくだらない雑談をし、俺と太宰は喫茶店を後にした。太宰はいかにも満足気な表情をしていた。
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。