hkt side
夜の少し冷たくも心地のいい風に吹かれ、俺は屋上の柵を越えようとしていた。
25歳。俺はアイドルという、世にいうみんなを笑顔に元気にする仕事をしている。
おかげさまで今年の1月にデビューをして、自分のやりたい芝居の仕事もたくさんでき、充実した一年だった、そう普通は思うだろう。でも、そんな中でも心のどこかは空っぽで、衝動的にめちゃくちゃになりたい、どうにかなってしまいたいとそう思う日もあるのだ。それが、ときに死という考えに至ることも……。
そう。今日はたまたまそんな日だった。仕事から帰ってきて、風呂に入って夕飯を食べて、あー、明日はコンサートのリハだなぁなんてテレビを見ながら考えていた。でも、突然なんだわ。
「あ、もう俺いいかな。いなくなって。メンバーには申し訳ないけど」
こう思ってしまうのは。
自殺はよく衝動的って言うけど、本当なんだよね。そこからの記憶はあまりない。ドア出て、エレベーターのって、屋上まで行く階段のぼって、気づいたら屋上の柵を越えようとしていた。
「あー、今日は一段と夜景がきれいだな」
そう、柄にもなくつぶやいて、柵を越えた……、その時だった。
??「あーー!!!命無駄にしようとしてるイケメン発見!!!いけないんだ!!いけないんだー!!!」
誰だよ。しかも話し方がうざい。声でかい。そうイラツキながら、後ろを振り返った。
そのとき俺の周りから音が消えた。なぜなら、この世のものとも思えない、まぁこれが美少女と言うんだろうなという女が立っていたから。俺が話しかけようとすると、またその美少女は喋りだした。
??「あ、やっぱりイケメンくんだった笑
ねぇ、そこの命を落とそうとしてる最低くん。
自殺するとその人どうなっちゃうか知ってる?」
なんだ、この女。そう思いながら俺は答えた。
(hk)「知ってるよ。天国にも地獄にも行けなくて、この世を彷徨うんだろ??」
??「なんだ。知ってるじゃん。まぁ、それだけじゃないんだけど…。まぁいいや。じゃあ、なんで、そこまで知ってて死のうとしてるの?まさか“なんとなく”じゃないでしょうね??」
俺はドキリとした。図星をつかれた。何なんだこいつ。
(hk)「うるせぇな。ってかお前誰だよ。なんで、ここにいるんだよ??」
??「あ〜、話ずらした。まぁ、いいや。私はね……。ってか、人に名前聞く前に自分の名前くらい名乗ったら!??」
やべぇ。こいつめちゃくちゃめんどくさい。
だが、なぜだかこいつから目が離せない。
(hkt)「俺?俺は『北斗』、は…?」
俺と目の前のやつとの声がかぶった。
??「北斗でしょ。私は君のことを知ってる。そして、君も私のこと知ってる。でも、わすれちゃっただけ。」
おれはこの短い時間に何度驚けばいいのか。そして、なぜこんなにこいつのペースに巻き込まれるのか。
??「まぁ、でもよかった〜。ちゃんと北斗くんのところに来れて!運が悪いと自分の行きたい人じゃない所に着地しちゃからな〜。って、お〜い。人の話聞いてる〜??ほくとく〜ん!??」
俺はもう目の前のやつの話が全く入ってこない。
あ、こいつのペースに流されててわすれたけど、
(hk)「そういうお前の名前は何なんだよ。」
??「ん!?あ〜!そうだった〜!!私はね〜」
第2話に続く……
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。