第10話

記憶 ①
392
2020/12/21 16:38
(寧々side)
「それは、私が死ぬ前、神様に『彼の記憶を消してください』ってお願いしたからかな」

大我くんに嘘をついてもバレてしまうと思った私は、本当のことを言った。

(大我)「え、なんで…」

「だって、私のことを思い出す度に、ほっくんには悲しい気持ちになってしまうでしょ?そんな思いをしてほしくなかった。私はあと何年も生きられない人間で、ほっくんはこれからたくさんの人を幸せにする人間。悲しい影を残したアイドルなんて、ファンは見ていて辛いじゃない?」

私は、なんでこんなにも淡々とまるで、他人事のように語れるのだろうと思っていた。その時だった。

(大我)「それ本当にそう思ってる?」

大我くんは、私の目を真っ直ぐみていった。

「うん、もちろん、思って……」

(大我)「じゃあ、なんでそんな泣きそうな顔してるの?」

そんなことない。そんなことないのに、なぜかどんどん胸が苦しくなっていく。そして、終いには私の目から堰を切ったように涙が溢れ出していた。

そんな私を見た大我くんは、あのときのように優しく私を包み込んで、背中をトントンとしてくれた。

(大我)「ほらほら。自分の気持ちを他人のために押し殺すところ、寧々の良くないところだよ。」

そんなこと言われたらもっと涙が溢れてきちゃうじゃない。

「最初は、もう一度ほっくんに会えただけで嬉しかったの。でも、今はそれだけじゃなくて、私のことを思い出してほしい。本当に二度と会えなくなる前にって。欲張りなのはわかってるのに…。」

そこまで言うと、大我くんは、手を握りながら、まるで小さい子に言うように、

(大我)「それを言うのは、俺じゃないでしょ?北斗ともう一回向き合って、きちんと自分の気持ちを話してごらん。」

と言った。

「でも、思い出してくれないかもしれない。」

(大我)「大丈夫。北斗なら絶対思い出してくれる。北斗はそういう人だって、寧々わかってるでしょ?」

やっぱり大我くんは私にとってヒーローのような存在。困ったときは、私に行くべき道を示してくれる。

「うん。絶対、絶対言う。向き合う。ありがとう。大我くん。私頑張るね。」

(大我)「うん。ファイト!寧々ともう一度こうして話せて、俺は嬉しかったよ。今度、休みが取れたら、寧々のお墓参りいくね。」

「あ〜、急に現実に戻された〜。うん。でも嬉しいよ。ありがとう。大我くんは、やっぱり私のヒーローだね!!」

(大我)「ヒーロー!??初めて言われたよ。さ、あんま長居すると北斗が心配しちゃうから楽屋戻ろうか。」

「うん!!」

そう言って、大我くんの温かい手に惹かれながら楽屋への帰路をたどった。


(taiga side)

ヒーローか……。まぁ、いいか。
寧々にとって俺がそういう特別な存在であるってことだもんな。
寧々が好きなのは、北斗。そして、北斗も寧々が好き。
そして、寧々は亡くなっているのにも関わらず、もう一度この世に来たということは、また戻らなくてはいけないということ。タイムリミットがあるんだよな。
その日までに、寧々が無事、北斗に自分の思いを伝えられますように。そして、北斗が封じ込められた記憶を取り戻せますように。
神様どうか…………。

そんな思いで、寧々の手を引いて楽屋に戻った。

第11話へ続く。

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