第8話

#8
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2018/09/24 07:11
俺は身体を強張らせて目をぎゅっと閉じたが、なにも起きない。

あれ?

思わずテオくんの方を向いた。


「あ、やっとこっち向いてくれたね」


少し照れを含んだ、笑顔。

胸が、更に締め付けられた。



ああ、もう、どうにだってなれ。


「テオくん…その…抱きしめ…ないの?」


喉の奥から絞り出した声は、思ったよりも震えていた。


「…!じんたん…」


テオくんが目を見開く。

俺は無意識に、拳に力を込めた。

やっぱり今日の俺はどうかしている。

テオくんに抱きしめられたいなんて、こんなこと一度も…

どうして?


「へんな気、起きちゃったの?」


ヘラっと笑みを浮かべて、茶化すようにテオくんはそう言う。


「俺はじんたんが嫌がることはしないよ」

「…」


いやじゃない。

むしろ、それを望んでさえいる自分がいた。


「ていうか俺たちさ、友達でしょ」

「…!」


友達、という言葉を聞いて、身体中の力が抜けるような感覚になった。

手が、震える。


「じんたんは友達だから、俺はそういう意味でじんたんのこと、抱きしめたりはしない」


友達と言われてこんなにも胸を締め付けられることはなかった。

じゃあ俺は、この気持ちのやり場をどこにやればいいの?

テオくん相手にこんなにドキドキしていて、友達以上のことを望んでいるのに。

もう、どうしたらいいっていうの。

わからないよ。

目頭がじわじわと熱くなるのがわかった。

鼻の奥がツンとする。


「だけどさ、」

「?」

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