初めて会った日を今でも鮮明に思い出せる。
まだ小学生で、だけどその場にいる誰より生意気で、気が強くて、プライドが高くて、意地っ張り。
だけどそれは、ほんの一部でしかなかった。
知れば知るほど溢れてくる魅力。
誰にも負けない可愛さ、人一倍の優しさ、案外寂しがり屋で、肝心なところでいつも遠慮がち。
思えば昔から、大人に甘えるのが下手な子どもだったっけ。
そんな栞那も、もうすぐ高校卒業。
一緒に過ごしてきたこの7年間で、栞那はトップモデルに君臨し、最近では女優としても少しずつ活躍し始めている。
慌てて眉間のシワを伸ばす栞那は、ココ最近ずっとこの調子。
というのも、全ては栞那の彼氏である来栖さんのせい。警察官として働く来栖さんの業務上、女性警官と2人きりで張り込み……なんて、言ってしまえば仕方がないのだけれど。
栞那にとっては、”仕方ない”で片付けられる問題ではなかったらしい。……そりゃそうよね。
もうすぐドラマの最終回分の撮影が始まる。
この3ヶ月、すごい勢いで駆け抜けてきた。
その中で栞那は口にこそしないけど、幾度となく壁にぶつかって、その度にその壁を自分の力でぶち壊してきたに違いない。
日々、強く、逞しく、そして何より頼もしく成長する栞那を尊敬しているし、栞那のマネージャーでいられることを誇りに思っている。
だからこそ。
……守りたい。
この笑顔だけは、何としても。
***
───夜。
自分から連絡するなんて、いつぶりだろう。
”大野さん”と呼んでいた頃が懐かしい。
いつの間にか”大野くん”へと呼び方が変化したのは、きっと自分の中で大野くんが”年下”だと意識づけるため。
対する大野くんは、栞那が私を”かおるちゃん”と呼ぶのを聞いて、その人懐っこさを武器に初めから私を”かおるさん”と下の名前で呼ぶ。
今でも、少しくすぐったい。
私の言葉に、勘のいい大野くんは何が言いたいのかうっすら分かったようだった。
「任せてください」と電話の向こうから聞こえる優しい大野くんの声。……その声を聞いたら、ついうっかり言うつもりのなかったことまで口走っていた。
不器用な2人を、私の代わりに大野くんに傍で見守って欲しい。
───ドキッ
真っ直ぐな人だから、もしかしたら……とは思っていた。だけど、大野くんは今年27歳。
仕事に打ち込んでる彼にとって、結婚なんてまだ先の話だろうと思う。
自信あり気に告げられた言葉に目を見開けば、今度は「って、電話で何言ってんだって思いました!?」なんて焦る声。
それが、大野くんらしくて……嬉しくて。
気持ちの整理できないまま、私は泣きながら笑った。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!