第13話

守りたい笑顔 side.かおる
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2020/09/15 04:00
初めて会った日を今でも鮮明に思い出せる。

まだ小学生で、だけどその場にいる誰より生意気で、気が強くて、プライドが高くて、意地っ張り。

だけどそれは、ほんの一部でしかなかった。


知れば知るほど溢れてくる魅力。
誰にも負けない可愛さ、人一倍の優しさ、案外寂しがり屋で、肝心なところでいつも遠慮がち。

思えば昔から、大人に甘えるのが下手な子どもだったっけ。
栞那
栞那
……っ、はぁ
小林 かおる
小林 かおる
こらこら、
そんなに眉間にシワ寄せると
次の撮影に支障が出るわよ?
そんな栞那も、もうすぐ高校卒業。

一緒に過ごしてきたこの7年間で、栞那はトップモデルに君臨し、最近では女優としても少しずつ活躍し始めている。
栞那
栞那
あぁ……
私ってばまた無意識で
慌てて眉間のシワを伸ばす栞那は、ココ最近ずっとこの調子。

というのも、全ては栞那の彼氏である来栖さんのせい。警察官として働く来栖さんの業務上、女性警官と2人きりで張り込み……なんて、言ってしまえば仕方がないのだけれど。

栞那にとっては、”仕方ない”で片付けられる問題ではなかったらしい。……そりゃそうよね。
小林 かおる
小林 かおる
最近ボーッとしすぎじゃない?
ちゃんとご飯は食べてるの?
栞那
栞那
食べれる時にまとめて……
あ、でも大丈夫!体重は落ちてない!
小林 かおる
小林 かおる
ドラマ撮影もいよいよ大詰めだし
ここに来て体調を崩しでもしたら
大変なんだからね?
もうすぐドラマの最終回分の撮影が始まる。

この3ヶ月、すごい勢いで駆け抜けてきた。
その中で栞那は口にこそしないけど、幾度となく壁にぶつかって、その度にその壁を自分の力でぶち壊してきたに違いない。

日々、強く、逞しく、そして何より頼もしく成長する栞那を尊敬しているし、栞那のマネージャーでいられることを誇りに思っている。
栞那
栞那
もう、かおるちゃんってば
お母さんみたい……
小林 かおる
小林 かおる
お姉ちゃんって言ってくれる?
栞那
栞那
アハハッ……それもそうだね
だからこそ。

……守りたい。
この笑顔だけは、何としても。
***

───夜。

自分から連絡するなんて、いつぶりだろう。
大野
大野
もしもし、かおるさん?
小林 かおる
小林 かおる
……大野くん、久しぶり。
今、ちょっとだけ話せるかな?
”大野さん”と呼んでいた頃が懐かしい。

いつの間にか”大野くん”へと呼び方が変化したのは、きっと自分の中で大野くんが”年下”だと意識づけるため。

対する大野くんは、栞那が私を”かおるちゃん”と呼ぶのを聞いて、その人懐っこさを武器に初めから私を”かおるさん”と下の名前で呼ぶ。

今でも、少しくすぐったい。
大野
大野
もちろん。
かおるさんから連絡くれるなんて
珍しい……いや、初めてっすね!
小林 かおる
小林 かおる
実は、栞那と来栖さんのことで
ちょっとお願いしたいことがあって
大野
大野
来栖と栞那ちゃんのことで?
小林 かおる
小林 かおる
来栖さんって、言葉足らずだし
おまけに女心に鈍感でしょ?
ましてや今、新米の女の子が
配属されたとか……
私の言葉に、勘のいい大野くんは何が言いたいのかうっすら分かったようだった。
大野
大野
……なるほど。
栞那ちゃん、不安がってますか?
小林 かおる
小林 かおる
ええ。
今、栞那はとにかく忙しい時期で
不安を抱えて不安定になるのは
体に与える負担も大きい……
大野
大野
確かに来栖は新米の女の子の指導やら、
ストーカーの張り込みに忙しくしてます。
けど、いつだって来栖の原動力は
栞那ちゃんの存在だと思います
大野
大野
栞那ちゃんの話をする時の来栖は、
いつも優しい顔してますから。
……とはいえ、栞菜ちゃんを
不安にさせるなんて罰が必要ですね
小林 かおる
小林 かおる
……さり気なく、大野くんからも
来栖さんにフォロー入れて欲しいな
「任せてください」と電話の向こうから聞こえる優しい大野くんの声。……その声を聞いたら、ついうっかり言うつもりのなかったことまで口走っていた。
小林 かおる
小林 かおる
それから、私……お見合い
することになるかもしれなくて
大野
大野
───っ、!?
小林 かおる
小林 かおる
今年で31だし両親が心配してて。
安心させてあげたいなって……
小林 かおる
小林 かおる
その時は、栞那のそばを離れて
地元に戻ることになると思う
大野
大野
お、お見合い……って、
小林 かおる
小林 かおる
まだ、決まったわけじゃないの。
ただ可能性として、もし私が
栞那のそばを離れることになったら
大野くん……あの二人をよろしくね
不器用な2人を、私の代わりに大野くんに傍で見守って欲しい。
大野
大野
……引き受けられません
小林 かおる
小林 かおる
え?
大野
大野
お見合いなんてしないで下さい。
……少なからず、かおるさんは
俺の気持ちに気付いてますよね?
───ドキッ

真っ直ぐな人だから、もしかしたら……とは思っていた。だけど、大野くんは今年27歳。

仕事に打ち込んでる彼にとって、結婚なんてまだ先の話だろうと思う。
大野
大野
何でも1人で背負いすぎる。
……かおるさんの悪い癖です
小林 かおる
小林 かおる
……っ、
大野
大野
俺じゃ、頼りないですか?
俺は、まだまだ成長途中です。
生涯、かおるさんが出会う男の中で
誰より1番良い男になってみせます
大野
大野
好きです。俺がかおるさんを
誰よりも……幸せにしてみせます
小林 かおる
小林 かおる
───!?
自信あり気に告げられた言葉に目を見開けば、今度は「って、電話で何言ってんだって思いました!?」なんて焦る声。

それが、大野くんらしくて……嬉しくて。
気持ちの整理できないまま、私は泣きながら笑った。

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