第4話

厄介なヤツ side 来栖
大野
大野
こら来栖、いつまでそんな
おっかない顔してるつもりだ?
来栖
来栖
……はぁ
大野
大野
言いたいことはよく分かる。
でも、お前には先輩として
後輩を教育する義務がある!
大野
大野
つまり、お前は中野の
面倒を見てやる必要がある
来栖
来栖
何でよりによって女なんですか?
大野
大野
まぁ、ストーカーって
女性被害者が多いからな〜
大野
大野
相談に来た被害者も、
野郎ばっかより女性警官がいた方が
話しやすいだろうって話が出たらしい
この短時間で、もう何度目か分からねぇため息を吐いて、俺は全てを諦めた。
来栖
来栖
……分かりました。
ただ、俺に任せるからには
教育の仕方は俺に一任して下さい
大野
大野
OK!
そんじゃ、あとはよろしく!
軽すぎる大野さんの声に、また出そうになったため息を意識的に封じ込めた俺は、さっき大野さんから渡された書類に目を落とす。

そこに書かれているのは、明日からストーカー対策室に配属されることが決まった新米警官の情報。
来栖
来栖
 中野 紗彩なかの さあや……
よりによって明日から来る新米は女。
おまけに、中野警視長の娘……だとか。
ま、誰の娘だろうと、俺には関係ないことだが。

……仕事とは言え、またひとつ栞那を不安にさせる要素が出来てしまったような気がして、気分が浮かない。
***

───翌日。

配属された新米警官に、俺は絶句した。
大野
大野
というわけで、
中野ちゃんの教育係は
来栖が務めるから!
中野 紗彩
中野 紗彩
来栖先輩、お手柔らかに
警官とは思えないほど派手に染められた髪。
膝上10cmほどに着崩されたスカート。

異様に長い人工まつ毛に、刺さりそうなほど尖ったネイル。


……誰だ、こんなやつを警官として認めたの。
来栖
来栖
大野さん、俺やっぱ
大野
大野
 頼むよ、来栖!!
お前しかいないんだって……!
俺の言いたいことを瞬時に理解して、必死に両手を擦り合わせる大野さんにそれ以上言えなくなる。

……大野さんには、世話になった。
俺がここまで成長出来たのも、俺を教育してくれた大野さんがいるからだ。

とは言え、
中野 紗彩
中野 紗彩
来栖先輩って、モテるでしょ?
すっごくタイプ!
来栖
来栖
は?
中野 紗彩
中野 紗彩
こんな先輩に教育してもらえるなんて
紗彩ラッキー!パパに感謝!
ぶりっ子全開の話し方はアホ丸出しで、おまけに仕事中だと言うのに中野警視長を”パパ”と呼ぶ甘えっぷり。

……ダメだ、鳥肌が立つ。
大野
大野
く、来栖……!抑えて!
中野警視長の娘だから……と、誰一人注意しようともしないことに苛立ちを隠せない俺。
大野さんは俺を鎮めようと、何やら必死に小声で呟いている。

───が、そんな事はこの際どうでもいい。

誰の娘だろうと、この世界で生きていくのなら、それなりの覚悟と誠意を見せてもらう。
来栖
来栖
なんだそのだらしねぇ格好は
大野
大野
く、来栖……!
中野 紗彩
中野 紗彩
だらしない?
……紗彩がですか!?
来栖
来栖
髪は黒染め!
スカートは膝下!
爪は短く、ネイルは落とせ!
中野 紗彩
中野 紗彩
そ、そんな……
来栖
来栖
勘違いすんな?
ここは、職場だ。
遊びてぇなら他にいけ
拍子抜けしたようにポカーンと口を開けて、目を見開いたまま俺を見る中野。
来栖
来栖
目障りだ。
俺の後輩になるからには容赦しねぇ
ここで泣くか?
それとも、帰ってからパパにチクるか?

……まぁ、好きにすればいい。

───そう思った時だった。
中野 紗彩
中野 紗彩
……私は”中野警視長”の娘ですよ?
来栖
来栖
それがなんだ?
中野 紗彩
中野 紗彩
っ!!
パパのこと関係なしに
私に厳しくしてくれたの……
来栖先輩が初めて♡
来栖
来栖
……はぁ?
……おい、待て。
なんかすげぇ目に輝きが宿ったぞ。

おまけに、無駄にやる気を感じる。
中野 紗彩
中野 紗彩
今日からよろしくお願いしますね!
来栖先輩……♡
来栖
来栖
……っ、
大野
大野
あ……これは、気に入られたな
語尾にハートマークが見えた
……面倒くせぇ。
この状況を、栞那にどう伝えるべきだ?
***

───夜。
栞那
栞那
来栖さん、また会いに来てくれる?
来栖
来栖
気が向いたらな
栞那
栞那
なにそれ〜!来栖さんなんか
私に会いたくて会いたくて
仕事も手につかなくなっちゃえ
ここんところ忙しい栞那と、中々会えない今。
栞那の仕事終わりに少しだけ顔を見に来た俺を、玄関まで見送りに来た栞那の顔はもう寂しそうで。
来栖
来栖
そしたら、栞那のせいで
ストーカー被害者が困るな
栞那
栞那
えぇっ!
……それは、困る
来栖
来栖
ふっ、冗談だ
栞那
栞那
いじわる……
ドラマの主役に抜擢されたと、嬉しさと不安を半分ずつ覗かせる栞那の背中を押して、そんな栞那の頑張りを誇りに思う中、

栞那に余計な心配をかけたくなくて、不安になんてさせたくなくて、新米女の教育係になったことは伝えなかった。
来栖
来栖
次会うまでの充電は?
栞那
栞那
……!
来栖さん、大好きっ!!
ギューッと俺に抱きついて”充電”する栞那にフッと零れる笑み。

この時間、俺も栞那に”充電”してもらってるってことを、きっとコイツは知らない。