第5話

かおるちゃんの迷い
───ついに、ドラマの仕事が本格的になろうとしていた、ある日。
栞那
栞那
……ついに、
台本もらっちゃったよ
手元には1話の台本。
パラパラ、とめくってみれば当たり前だけど、脇役の時とは比べ物にならないセリフ量。

これ……全部、覚えなくちゃいけないんだよね。
それに、ただ覚えて読むだけじゃダメで、加えて演技もしなくちゃいけない。

あぁ、そう思うと女優さんって本当にすごいな。
栞那
栞那
かおるちゃん、後で
台本読み付き合ってくれない?
今日の撮影も、残すところあと少し。
出番待ちをしながら、控え室で台本を片手にかおるちゃんへと視線を向ければ、
小林 かおる
小林 かおる
……はぁ
栞那
栞那
かおるちゃん?
肝心なかおるちゃんは、ボーッと遠くを見つめていて、私の声は届いていないらしい。

ココ最近、そんなことが多々あった。
……何か悩んでる?

それなら、私に少しくらい話してくれたらいいのに。私じゃ頼りない?心配かけたくない?それとも、人に頼ることをかっこ悪いと思ってる?

……かおるちゃんなら全部有り得そうだ。
栞那
栞那
かーおーるーちゃん!!!
小林 かおる
小林 かおる
……わっ!!
び、びっくりした
栞那
栞那
なに?ボーッとしちゃって。
私の話、全然聞いてないし……
わざと拗ねて見せれば、かおるちゃんは慌てて両手を合わせた。
小林 かおる
小林 かおる
ご、ごめん!
少し考えごとしてて。
それで、何の話だっけ?
おかしい。

大人の女、小林かおるが……
私の話を聞いてないとか、ボーッとしてるとか、心ここに在らずって感じなのは、どうもおかしい。
栞那
栞那
台本読み!
後で付き合ってっていう話!
小林 かおる
小林 かおる
あぁ!台本読みね。
主役はセリフ量も多いだろうし、
私で良ければ何度でも付き合うよ
栞那
栞那
ありがと、かおるちゃん!
……それからもうひとつ
小林 かおる
小林 かおる
なに?
栞那
栞那
今日、仕事が終わったら
ちょっと付き合ってくれない?
気分転換にカフェでも行きたい気分
小林 かおる
小林 かおる
……いいね!
久しぶりに行っちゃいますか
顔を見合わせてニヤリと笑い合う。
カフェなんて【倉木 栞那】としての知名度が上がれば上がるほど、簡単には入れなくなったけど。

かおるちゃんの一大事かもしれないし、今日くらい……いいよね?
***

───1時間後。

思ったより早く仕事が終わった私とかおるちゃんは、かおるちゃんオススメの隠れ家的カフェにやって来た。

オシャレなパーテーションで仕切られた空間は、ほぼ個室みたいで、メニューもオシャレなものばかり。

……さすが、かおるちゃん!
栞那
栞那
それで?
小林 かおる
小林 かおる
……え?
栞那
栞那
最近のかおるちゃんは
何を悩んでるのかな?
小林 かおる
小林 かおる
……っ!ダメね、私ってば。
もうすぐドラマもクランクインで
栞那にとって大事な時期なのに
栞那
栞那
そういう意味で言ったんじゃなくて!
何か悩んでるなら言ってくれなきゃ
栞那
栞那
頼りないかもしれないけど、
話を聞くくらいならできるし
ちょっと頬を膨らませて拗ねてる私に、向かい側のかおるちゃんがプッと吹き出した。

……あぁ、お子ちゃまな自分が恥ずかしい。
小林 かおる
小林 かおる
ありがと!
……栞那の大事な時だからこそ
言えないって思ってたんだけど
栞那
栞那
……え?
小林 かおる
小林 かおる
私、今年で31歳になるでしょ?
この間、心配した両親から
地元でのお見合い勧められてね……
栞那
栞那
じ、地元でのお見合い!?
小林 かおる
小林 かおる
……うん。
もし、お見合いして上手く行けば
結婚して地元に戻ることになって、
そしたら……
かおるちゃんは、そこまで言って私を見つめる。
言いたいことは嫌ってほど分かるのに、今は何も分かりたくないと思った。

だって、地元に戻るってことは……私のマネージャーじゃなくなるってことでしょ?かおるちゃん以外なんて、そんなの絶対嫌だもん。
栞那
栞那
……かおるちゃん、
小林 かおる
小林 かおる
……ごめんね、不安にさせた?
まだお見合いするって
決めたわけじゃないのよ?
小林 かおる
小林 かおる
私、栞那のことが大好きだから
出来ることなら離れたくないし。
それに、大野さんのことも……
切なげに揺れたかおるちゃんの瞳。

……やっぱり、かおるちゃん大野さんのこと好きなんだ。

なんだかんだ、未だに連絡を取り合っている大野さんとかおるちゃん。2人は、いつか自然と”そういう関係”になるんだとばかり思っていたけど。
栞那
栞那
好きなら!!好きなら、
気持ち……伝えるべきだよ
小林 かおる
小林 かおる
大野さんは、まだ若いから。
もっと、ゆったり恋愛するべきだよ
諦めきっているかおるちゃんの目は、見ている私の心まで冷やしていく。

大野さんと、結ばれて欲しい。
私は、どうしてもそう願わずにはいられない。
栞那
栞那
……私は、どんな時でも
かおるちゃんの味方だから。
かおるちゃんの出した答えを
全力で応援するから、ね。
本当は『辞めないで』と泣いてすがりたい。

だけど、かおるちゃんの幸せを誰より願ってる。かおるちゃんの幸せのためなら、かおるちゃんが例えどんな答えを出しても……背中を押すからね。