第3話

危険な顔合わせ
この前の休み以来、来栖さんとまた会えない日々が続いている。

毎日、連絡は取ってるけど……やっぱり会えないとなれば寂しさは募る。

最近は雑誌の専属モデルとしての仕事はもちろん、『倉木 栞那1st写真集』の発売が決まり、撮影のために海外ロケに行ったり、バラエティ番組に出たり。

ありがたいことに毎日とても忙しく過ごしている。

もちろんその合間で、なるべく可能な限りは学校に通って、単位を落とさないように必死な高校生としてのひとコマもあって……。
栞那
栞那
時間……足りないよ
どう頑張ったって、来栖さんと過ごす時間はおあずけ状態を余儀なくされるというわけだ。

……だけど、ドラマ出演が決まった今。
来栖さんには遅かれ早かれ、自分の口で報告する必要があると判断した私は、普段メッセージばかりで連絡を取っている来栖さんに、震える手で電話をかけた。


───プルルル、プルルル……ッ
来栖
来栖
もしもし?
栞那
栞那
あ、もしもし。
来栖さん?
数コールの後、いつも通りちょっと気だるげな愛おしい声。
来栖
来栖
……なんかあったか?
栞那
栞那
え?
来栖
来栖
電話、珍しいから
栞那
栞那
……あ、うん。
ちょっと声が聞きたくなって
栞那
栞那
……って言うのは嘘で、
来栖
来栖
嘘かよ
栞那
栞那
ふふ……あのね、
ちょっとした報告があるんだ
来栖
来栖
報告?
……なんだよ
淡々とした喋りだけど、冷たさは感じない。
顔は見えないのに、来栖さんが今、どんな顔してるのか想像がついてしまうのは、私が来栖さんを大好きな証拠だ。
栞那
栞那
実は、次の仕事で
ドラマの主役が決まったんだ
来栖
来栖
ドラマ?
栞那
栞那
今まではモデルがメインで、
ドラマはいつも脇役ばっかだったし
正直、大抜擢すぎてビックリしてるけど
来栖
来栖
お前を主役に選ぶなんて
物好きな監督だな
栞那
栞那
……もう!
すぐ意地悪言うんだから……
栞那
栞那
今後、活動の幅を広げるためにも、
今回のドラマはチャンスだと思う
栞那
栞那
だから、
来栖
来栖
……すげぇじゃん。
何事にも一生懸命で努力家な
お前なら良いドラマ作れんじゃねぇの
栞那
栞那
……来栖さん
来栖
来栖
応援してる。
忙しくなることを気にしてんなら
そんな事は心配しなくていい
栞那
栞那
……でも、私が寂しくなったら?
来栖
来栖
フッ……
相変わらず、わがままだな
栞那
栞那
っ、だって!
私が忙しいせいで会えないとは言え
私だって寂しくないわけじゃないし……
それに、来栖さんこの間、甘えていいって言ってくれたもん。私たちは『恋人』だから。

……って、ダメだ。
あの日のことを思い出すと、胸がジンジン疼いて、頬が熱を帯びていく。
来栖
来栖
そんときは、夜中でも早朝でも
仕事中でもなんでも駆け付けてやる
栞那
栞那
……ほ、ほんと?
来栖
来栖
嘘だと思うなら、試してみろよ
栞那
栞那
え?
来栖
来栖
今日はもう仕事、
終わったんじゃねぇの?
栞那
栞那
うん……?
さっき雑誌の撮影が終わって
もうすぐ家に……あっ、
そこまで口にして、来栖さんの言っている意味に気付く。

途端、口元が緩んで、来栖さんへの好きが溢れた。
来栖
来栖
それで?
栞那
栞那
今すぐ……!
今すぐ会いに来て、来栖さん
来栖
来栖
了解。
お利口さんにしてろよ
私を子ども扱いする来栖さんに、もう!とは思いつつ、私は笑顔で頷いて電話を切った。
***

【ドラマ顔合わせの日】
栞那
栞那
……はぁっ、
あと15分もすれば始まるであろう顔合わせを前に、珍しく緊張している。

ドラマの顔合わせは初めてじゃないけど、今回は主役としてのプレッシャーがそうさせているのかもしれない。
池松 煌
池松 煌
はじめまして、倉木 栞那さん
そんな私に降ってきた、爽やかな声。
栞那
栞那
あ……、池松 煌
池松 煌
池松 煌
俺のこと知ってんだ?
それは光栄だな
栞那
栞那
これから3ヶ月、よろしくね
ニコリと笑って、目じりにシワを作る彼は、見た目も中身も爽やかな好青年って感じ。

良かった、話しやすそうな人だな……なんて思ったすぐあと───。
池松 煌
池松 煌
断言してもいい
栞那
栞那
……え?
池松 煌
池松 煌
この撮影期間中に、
お前は俺に惚れる
栞那
栞那
……は?
あれ、なに?

さっきまでの爽やかさが消えて、今目の前で笑う池松煌は……自信に満ち溢れたただの、ナルシスト!?

この撮影期間中に、私が池松煌に惚れる?
そんなの……
栞那
栞那
ごめん、絶対ない
池松 煌
池松 煌
……は?
だって、私には来栖さんがいるんだから。
よそ見をする気なんてサラサラない。
池松 煌
池松 煌
分かってないね、ドラマってのは、
主演同士が恋をしながら
撮影することでより良いものになる
栞那
栞那
……じゃあ、断言してもいい
栞那
栞那
私は、あんたに惚れたりしないし
あんたに恋をしなくても
このドラマを良いものにする
それで文句ないでしょ?

私はそれだけ言って、池松煌に背中を向け歩き出した。好青年だと思ったら、単なる勘違いナルシストだったなんて……最悪!!

あぁ、勘違いナルシストと3ヶ月も一緒に撮影なんて憂鬱だよ。