この前の休み以来、来栖さんとまた会えない日々が続いている。
毎日、連絡は取ってるけど……やっぱり会えないとなれば寂しさは募る。
最近は雑誌の専属モデルとしての仕事はもちろん、『倉木 栞那1st写真集』の発売が決まり、撮影のために海外ロケに行ったり、バラエティ番組に出たり。
ありがたいことに毎日とても忙しく過ごしている。
もちろんその合間で、なるべく可能な限りは学校に通って、単位を落とさないように必死な高校生としてのひとコマもあって……。
どう頑張ったって、来栖さんと過ごす時間はおあずけ状態を余儀なくされるというわけだ。
……だけど、ドラマ出演が決まった今。
来栖さんには遅かれ早かれ、自分の口で報告する必要があると判断した私は、普段メッセージばかりで連絡を取っている来栖さんに、震える手で電話をかけた。
───プルルル、プルルル……ッ
数コールの後、いつも通りちょっと気だるげな愛おしい声。
淡々とした喋りだけど、冷たさは感じない。
顔は見えないのに、来栖さんが今、どんな顔してるのか想像がついてしまうのは、私が来栖さんを大好きな証拠だ。
それに、来栖さんこの間、甘えていいって言ってくれたもん。私たちは『恋人』だから。
……って、ダメだ。
あの日のことを思い出すと、胸がジンジン疼いて、頬が熱を帯びていく。
そこまで口にして、来栖さんの言っている意味に気付く。
途端、口元が緩んで、来栖さんへの好きが溢れた。
私を子ども扱いする来栖さんに、もう!とは思いつつ、私は笑顔で頷いて電話を切った。
***
【ドラマ顔合わせの日】
あと15分もすれば始まるであろう顔合わせを前に、珍しく緊張している。
ドラマの顔合わせは初めてじゃないけど、今回は主役としてのプレッシャーがそうさせているのかもしれない。
そんな私に降ってきた、爽やかな声。
ニコリと笑って、目じりにシワを作る彼は、見た目も中身も爽やかな好青年って感じ。
良かった、話しやすそうな人だな……なんて思ったすぐあと───。
あれ、なに?
さっきまでの爽やかさが消えて、今目の前で笑う池松煌は……自信に満ち溢れたただの、ナルシスト!?
この撮影期間中に、私が池松煌に惚れる?
そんなの……
だって、私には来栖さんがいるんだから。
よそ見をする気なんてサラサラない。
それで文句ないでしょ?
私はそれだけ言って、池松煌に背中を向け歩き出した。好青年だと思ったら、単なる勘違いナルシストだったなんて……最悪!!
あぁ、勘違いナルシストと3ヶ月も一緒に撮影なんて憂鬱だよ。
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。