第15話

天秤にかけなさい
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2020/09/29 04:00
来栖side.

栞那との予定をドタキャンしてから、忙しい日々が続き、埋め合わせどころか、栞那との時間がどんどん減っている自覚がある。

とはいえ、手強いストーカーに張り込みや調査は長引き、おまけに巡査から巡査部長への昇任試験を控えている今、勉強する時間も必要で。
中野 紗彩
中野 紗彩
来栖先輩、
コーヒー淹れました
来栖
来栖
あぁ、悪い
中野 紗彩
中野 紗彩
……次の張り込み。
私もご一緒していいですか?
来栖
来栖
いや、次回の張り込みは危険だ。
俺と大野さんで当たる
中野 紗彩
中野 紗彩
でも!……もっと、勉強して
早く来栖先輩の役に立ちたいんです
この所、中野は必要以上に張り込みについてきたがる。前回の張り込み中は、ストーカーを見張るどころか、「来栖先輩と2人っきりなんて、ちょっと浮かれちゃいます」とかふざけたことを言いやがって。

そのあとも、楽しそうにはしゃいで、おまけに張り込みもせず先に爆睡。

仕事だっていう意識はまるでゼロだった。
来栖
来栖
とにかく、次回の張り込みに
同行する許可は出せない
来栖
来栖
仕事に戻れ
俺の言葉を不服そうにしながらも、中野は自席へと戻って行く。

そんな中野とほぼ入れ替わりでやって来た大野さんは何かを考えているような顔で小さく俺に告げた。
大野
大野
来栖、中野警視長が
お前をお呼びらしい
来栖
来栖
……俺ですか?
先日、何を言ったわけでもねぇのに、大野さんは俺が栞那との約束をドタキャンしたこと知っていた。

張り込みへ行くのは正直、俺でも大野さんでも良かったのに、わざわざ予定のある俺に行かせたことを申し訳なく思ったのだろう。

「気の利かない先輩で悪い」と眉を下げる大野さんは、出会った頃から変わらずお人好しすぎる。
大野
大野
なんっか嫌な予感がする。
……いや、考えすぎだよな?
来栖
来栖
勝手に嫌な予感させんの
やめてくださいよ
きっと、栞那が会えない寂しさと、今回の中野との張り込みで不安になってるはずだと言う大野さんから、「不安を解消するのは言葉と態度だ」ってアドバイスをもらったのはいいが。

……大野さんこそ、人のことより自分の恋愛にもっと、力を注いだ方がいい。

栞那のマネージャー……なんだっけ。
確か小林?

間違いなくお互い気があるくせに、お互いに遠慮ばっかして未だ付かず離れず。
大野
大野
とにかく、行ってこい!
何かあったらすぐ報告しろよ
来栖
来栖
了解
嫌な予感……か。
少なくとも俺も、良い予感はしていない。
***

───5分後。
訪れた俺を、中野警視長は人の良さそうな笑顔で出迎えてくれた。
中野警視長
うちの娘はどうだ?
……なんて、聞くまでもないか
中野警視長
わがままで傲慢で、
育てづらくて困ってるんじゃないか?
来栖
来栖
……そうですね。
警官向きではないように思います
中野警視長
……ハハッ、大抵のやつは
思っていてもそうは言えないぞ?
来栖
来栖
すみません、嘘をつくのは苦手で
俺の言葉に、相変わらず人の良さそうな笑顔で対応する警視長。

……この調子で行くと、本題はきっと───。
中野警視長
ハッキリとものを言える。
紗彩の言っていた通りの人だ
中野警視長
紗彩がひどく来栖くんを
気に入っていてね〜
歳も近いんだってね?
来栖
来栖
ええ、私が1つ歳上かと
中野警視長
うん……ちょうどいい。
あの通り、あの子は警官に向いていない。
仕事から離れて、早く家庭に入った方が
いいんじゃないかとも思っているんだ
中野警視長
そこで、来栖くん。
うちの娘と結婚しないか?
……やっぱり、そういうことか。
中野警視長
もうすぐ昇任試験も控えてるんだろう?
その際は、微力ながら協力させてもらうよ
くだらねぇ。こんなことに時間使ってる暇があったら、勉強できるって話だ。
来栖
来栖
……ありがたいお話ですが。
俺には心に決めた大事な人がいます
来栖
来栖
それに、俺にとって試験は
自分の実力を試せる格好の場です。
……協力は必要ありません
それだけ告げて小さく頭を下げ、俺は中野警視長の元を後にした。
***

栞那side.
池松煌とのキスを、まだ自分の中でも整理出来ていないまま。私が流した涙は、演技としての”嬉し涙”と捉えられ、監督は絶賛してくれた。

とりあえず、キスのことを隠さず来栖さんに伝えようと電話を耳に押し当てる私は、
中野 紗彩
中野 紗彩
はーい。
来栖の携帯です
聞こえてきた声に、心臓がドクンと波打った。
なんで来栖さんのスマホに、女の人が出るの?
栞那
栞那
あの……あなた、
中野 紗彩
中野 紗彩
私は、中野 紗彩。
来栖さんの後輩……あ、
もうすぐお嫁さんになりま〜す
栞那
栞那
───!?
中野 紗彩
中野 紗彩
今、来栖さんは
私のパパとお話し中だよ。
議題は多分、私たちの結婚について
栞那
栞那
さっきから……何言ってるの?
そんなわけ、
中野 紗彩
中野 紗彩
じゃあ───、
電話の向こう。
中野 紗彩
中野 紗彩
自分の幸せと来栖さんの幸せを
天秤にかけてみて……?
勝ち誇ったように笑う中野さんに、背筋を冷たい汗が伝う。

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