来栖side.
栞那との予定をドタキャンしてから、忙しい日々が続き、埋め合わせどころか、栞那との時間がどんどん減っている自覚がある。
とはいえ、手強いストーカーに張り込みや調査は長引き、おまけに巡査から巡査部長への昇任試験を控えている今、勉強する時間も必要で。
この所、中野は必要以上に張り込みについてきたがる。前回の張り込み中は、ストーカーを見張るどころか、「来栖先輩と2人っきりなんて、ちょっと浮かれちゃいます」とかふざけたことを言いやがって。
そのあとも、楽しそうにはしゃいで、おまけに張り込みもせず先に爆睡。
仕事だっていう意識はまるでゼロだった。
俺の言葉を不服そうにしながらも、中野は自席へと戻って行く。
そんな中野とほぼ入れ替わりでやって来た大野さんは何かを考えているような顔で小さく俺に告げた。
先日、何を言ったわけでもねぇのに、大野さんは俺が栞那との約束をドタキャンしたこと知っていた。
張り込みへ行くのは正直、俺でも大野さんでも良かったのに、わざわざ予定のある俺に行かせたことを申し訳なく思ったのだろう。
「気の利かない先輩で悪い」と眉を下げる大野さんは、出会った頃から変わらずお人好しすぎる。
きっと、栞那が会えない寂しさと、今回の中野との張り込みで不安になってるはずだと言う大野さんから、「不安を解消するのは言葉と態度だ」ってアドバイスをもらったのはいいが。
……大野さんこそ、人のことより自分の恋愛にもっと、力を注いだ方がいい。
栞那のマネージャー……なんだっけ。
確か小林?
間違いなくお互い気があるくせに、お互いに遠慮ばっかして未だ付かず離れず。
嫌な予感……か。
少なくとも俺も、良い予感はしていない。
***
───5分後。
訪れた俺を、中野警視長は人の良さそうな笑顔で出迎えてくれた。
俺の言葉に、相変わらず人の良さそうな笑顔で対応する警視長。
……この調子で行くと、本題はきっと───。
……やっぱり、そういうことか。
くだらねぇ。こんなことに時間使ってる暇があったら、勉強できるって話だ。
それだけ告げて小さく頭を下げ、俺は中野警視長の元を後にした。
***
栞那side.
池松煌とのキスを、まだ自分の中でも整理出来ていないまま。私が流した涙は、演技としての”嬉し涙”と捉えられ、監督は絶賛してくれた。
とりあえず、キスのことを隠さず来栖さんに伝えようと電話を耳に押し当てる私は、
聞こえてきた声に、心臓がドクンと波打った。
なんで来栖さんのスマホに、女の人が出るの?
電話の向こう。
勝ち誇ったように笑う中野さんに、背筋を冷たい汗が伝う。
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。