「ふぅ〜ん?」なんて、口角をあげて私を見つめるかおるちゃんに、目が泳ぐ。
今日は雑誌の撮影日。
待機時間に、かおるちゃんと控え室でプチお菓子パーティをしている今、つい先日の来栖さんとの甘々な時間を思い出してニヤついてしまったらしい。
そう……。
あの日、『充電させろ』なんて言いながら、私を抱きしめてくれた来栖さんだったけど。
結局、ハグ以上のことなんてなかった。
おでこに落とされたキスをカウントしてもいいと言うのであれば……ううん、やめよう。
なんか、また勝手に不安になりそうだ。
どういう意味?と聞くべくと口を開いた私を、スタッフの「撮影再開しまーす!」という声が邪魔をした。
***
───2時間後
いつもなら、撮影が終わったら真っ先に『お疲れ様〜』と労ってくれるかおるちゃんが、今日はいつもと違うことを不思議に思う。
今の時点で落ち着きがないのは、間違いなく私よりもかおるちゃんだ。
いつもは大人の女性代表!って感じのかおるちゃんだから、こんなにも何かに興奮しているところなんて今まで見たことないかも。
ドラマ出演は、過去にも何作か経験しているけれど、ヒロインの友達役だったり、クラスメイトその3くらいの役回りばかりで、正直セリフの少ない役が多かった。
今回のドラマは……私が主役……
突然の大抜擢に、嬉しさが半分。
だけど同じだけ戸惑いも、不安もあって。
……それから、
……そう。恋愛ドラマと聞いて、真っ先に頭に浮かんだのは来栖さんの顔だった。
これはあくまでもドラマで、その中で起きること全てが演技だと分かってはいても、来栖さん以外の人と手を繋いだり、腕を組んだり、抱き合ったり……台本次第ではキスだってあるかもしれない。
そう思うと、ずっしり重たい何かに押しつぶされそうになる。
池松 煌と言えば、若い子の間で大人気の若手俳優で、知名度はかなり高い。
名前がわからないって言う高齢の人でも、顔は知見たことがある!と答えてしまいそうなくらい、毎日のようにテレビで見かける。
……かおるちゃんは、いつだって私を正しい方へ、正しい方へと導いてくれる。
きっと、このドラマのオファーを受けることが、落ち込んだ時、辛い時、泣きたい時、苦しい時、どんなときもそばで支えてくれたかおるちゃんに対して、恩返しにもなると思うから。
モデルとして、女優の卵として、私にだってプライドがある。
やるからには、とことん頑張ろう!!
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。