第6話

キスシーン!?
栞那
栞那
……嘘でしょ〜っ
1話の撮影は順調に進み、残りわずかとなった今。

早くも2話の台本をもらい、帰宅後に部屋でパラパラとめくっていた私は、とんでもない事実に頭を抱えた。
栞那
栞那
嘘でしょ……
と、言うのも。
1話では、ラストのふたりが出逢うシーンまで一切絡みのなかった池松煌と、2話ではいきなりキスシーンがあるのだ。

2話で、もうキスシーン!?
これって普通なの?

主役は初めて、もちろんキスシーンも初めて。
どんな気持ちで迎えればいいのか、戸惑ってしまう。

それに、やっぱり……
栞那
栞那
言うしかないよね
栞那
栞那
てか、言わないなんて無理だよね
ドラマが放送されたら
どうせバレることだし……!
来栖さんへ報告しなければと思うとズッシリ気が重くなる。

……なんて言うかな?
演技とは言え、キスシーンだし。
まだ、来栖さんとキスしてないのに……。
栞那
栞那
怒るかな?
……いや、来栖さんのことだから
「あっそ」とか「へえ」とか言う?
栞那
栞那
この期に及んで
「お前にキスシーンなんて出来んのか」
って、いじわる言われたりして……
……大いにあり得る。
嘘、待って?想像できすぎる!!

はぁ。
勝手に想像して落ち込むなっていう来栖さんの声が聞こえた気がしたけれど、今から想像が現実になるのだと思うとなんとも悲しい。
栞那
栞那
残業だってメッセージ入ってたけど
……もう仕事終わったかな?
スマホのディスプレイには22:18と表示されている。試しにかけてみて、ダメなら明日にしよう。

そう思った私は、少し躊躇いがちに発信ボタンをタッチした。

───プルルル、
来栖
来栖
……はい、来栖です
たった1回のコールの後、聞こえた来栖さんの声は、まだ仕事モード。

それを聞いて一瞬で「あ、まだ仕事中なんだ」って理解した。
栞那
栞那
あ、ごめん。
まだ仕事中だよね?
また明日かけ直す!
来栖
来栖
いや、いい。
俺もちょうど休憩中だった。
……どうした?
思いのほか優しい声に、私の緊張が少し解けていく。
栞那
栞那
あのね、この間伝えた……
ドラマのことなんだけど
来栖
来栖
あぁ
なるべく手短に伝えようと頭の中ではあれこれ考えるのに、どう伝えるべきなのかまとまらない。
栞那
栞那
……恋愛ドラマなの。
相手役は、若手ナンバーワン俳優って
言われてる池松煌って方なんだけど
来栖
来栖
……まぁ。
薄々、恋愛ものだとは思ってた
……あれ?
やっぱり、来栖さん。

あんまりダメージ受けてない?
と言うより、私の仕事に本当に理解があるって言うか……寛大すぎる。
栞那
栞那
そ、それと!
もうひとつ、言っておかなきゃ
いけないことがあってね?
来栖
来栖
……まだあんのか
栞那
栞那
2話の台本もらって読んだら
キスシーンがあってね……
この先、回を重ねるごとに
もっと増えるかもしれなくて
栞那
栞那
来栖さんはもしかしたら
気にしないかもって思ったんだけど
一応、私的にはちょっと……
来栖
来栖
……はぁ
耳元で聞こえた大きな大きなため息に、電話越しだって言うのに肩がビクッと跳ねる。

……あぁ、これは仕事中にくだらないことで電話かけてきやがってって怒られる!?

キスシーンなんて勝手にやってろ!とか言われる?
栞那
栞那
あの……ごめんね!
忙しいのに、こんなくだらないことで
来栖
来栖
どこがくだらねぇんだよ
栞那
栞那
えっ……?
来栖
来栖
お前の中で、”彼氏以外とのキス”は
くだらねぇことなのか?
栞那
栞那
ち、違っ……!
そうじゃなくて、
あれ……?

来栖さん、怒ってる。
いや、怒ってるのはため息をつかれた時から分かってたんだけど。

なんだろう。来栖さんの怒りの矛先はもしかしたら『くだらない電話』に対してじゃなくて『キスシーン』に対してだったり……する?
来栖
来栖
お前
来栖
来栖
……そんなの、
俺が許すと思ってんのか
栞那
栞那
っ……!
不機嫌そうに放たれた来栖さんの言葉に、キュッと締め付けられる胸。

……来栖さんは、平気だと思ってた。
ドラマの撮影なら尚更、割り切れる人だと勝手に思い込んでいた。

だけど、
栞那
栞那
い、嫌ってこと!?
来栖
来栖
はぁ!?
嫌じゃねぇやつがどこにいんだよ
栞那
栞那
……ふふ、
なんだ……嫌なんだ
来栖
来栖
って、なに笑ってんだよ
大野
大野
来栖〜!再開すっぞ〜
後ろの方から大野さんの声が聞こえて、来栖さんが小さく返事をする。
来栖
来栖
悪い。仕事に戻る。
……続きは、あとでじっくり聞く
栞那
栞那
うん、頑張りすぎないでね
「ん」と短く返事をした来栖さんとの電話が切れても、私のニヤニヤは止まらない。

だって、嬉しいんだもん。
……来栖さんも、私のことちゃんと好きなんだって思えたから。