第11話

ケンカして…
3,539
2020/10/13 07:00
~あなたサイド~


義勇くんとの貴重な週末。

…いつの間にか寝ちゃってた。

女の子たちの声が、まだ聞こえる。
あなた
まだいるんだ…
もう夕方だよ…
クラスの女子
先生ー、
夕飯作ってあげる!
義勇くんの声
いや…
やめて…キッチンに入らないで。
そこはわたしの場所よ…!!
あなた
もう無理っ…
思わず声をあげて、
部屋から出そうになった、その時…
義勇くんの声
すまないが、
もう帰ってくれないか
教材の準備があるんだ
クラスの女子
はーい
ようやく…
帰っていった…。

そして…

カチャ…
冨岡義勇
冨岡義勇
あなた…
すまなかった
あなた
義勇くん…
冨岡義勇
冨岡義勇
新任だし、
無下むげにもできなくて…
あなた
義勇くんの仕事は
支えたいって思ってるけど…
でもそれは、少なくとも、
こんなかたちじゃない。
冨岡義勇
冨岡義勇
あなたなら、
わかってくれると思った
ありがとう
ちょっと待って、
何それ…。
あなた
…かんない…

わかんないよ!
冨岡義勇
冨岡義勇
えっ…?
あなた
わたしがこの週末を
どんなに楽しみにしてたかっ…

義勇くんには、わかんないの!?
冨岡義勇
冨岡義勇
俺だって、楽しみにしていた
あなた
女の子たちの話を隠れて聞いたり、
ご飯作ったりするために
来たんじゃないよっ…
冨岡義勇
冨岡義勇
わかっている
あなた
わかってないっ…
やだ…泣きたくないのに…。
涙が止まんない…。
冨岡義勇
冨岡義勇
あなた…
義勇くんが、わたしの涙を
親指でそっとぬぐう。
あなた
なによ
この間もクッキーもらって
鼻の下伸ばしちゃって…
冨岡義勇
冨岡義勇
クッキー?
ああ…
冨岡義勇
冨岡義勇
あなたこそ…
あなた
何?
冨岡義勇
冨岡義勇
時透と楽しそうに
話していた…
あなた
楽しそう?
どこがよ…
義勇くんの話を、してたんじゃない。
義勇くんが女子に囲まれて…。

もうやだ。

嫉妬なんて子どもっぽい…。
あなた
あんなやつ…
冨岡義勇
冨岡義勇
だが、あなたは笑っていた
わたしに添える義勇くんの手が
わずかに震えていた…。

義勇くんの気持ちが…
今は…わからないよ…。


見上げると、義勇くんの碧い目が
悲しくこちらを見つめていて…
あなた
キス…
してくれないの?
冨岡義勇
冨岡義勇
あなた…
あなた
この間の…
保健室の続き…



~義勇サイド~


あなたが…
怒っているのは明らかだった。

だが、俺に湧き上がる感情が、
怒りなのか嫉妬なのか…
はたまた、欲情なのか…。

あなたを傷つけるのがこわい。
冨岡義勇
冨岡義勇
あなた…すまない…
口下手な俺は、
何と言ったらいいか
わからなかった…。
あなた
キス…
してくれないんだ…
冨岡義勇
冨岡義勇
他に誰もいない家だし…

歯止めが効かなくなりそうで
怖いんだ…
今日は…手を出したら
多分止まらない。

止める自信がない。
あなた
そっか…
あなたの涙が、またひとつ
ポロン…とこぼれた。
冨岡義勇
冨岡義勇
あなた…
あなたのくちびるを、
指で、すりっ…とした。
あなた
義勇くん…
冨岡義勇
冨岡義勇
すまない…
あなた…願わくば、
早くこの手に抱きたい。

抱いてしまいたいんだ…。

ハァッ…。

がまんがつらい…。
冨岡義勇
冨岡義勇
今日みたいなことが、
またあるかもしれないし…

ここには来ない方が
いいのかもしれない
あなた
えっ…?
冨岡義勇
冨岡義勇
会うなら、あなたの実家で…
あなた
何言ってるの?
冨岡義勇
冨岡義勇
あなたを大事に…
あなた
義勇くんのばかっ…
冨岡義勇
冨岡義勇
あなた?
バッ…

あなたが、俺の手を払いのけ、
カバンを持って飛び出して行った。
冨岡義勇
冨岡義勇
待っ…あなたっ…

べ、勉強は?
バタン…。

ドアが音を立てて閉まった。


俺は、何を言ってるんだ
こんな時に…。
冨岡義勇
冨岡義勇
あなた…
あなたの去った部屋には、
あなたのいたぬくもりが、
まだありありと残っていた。


どうしたらよいかわからなくなり、
落ち着こうと、コップに水をくんだ。

すると…
いい匂いのする、大鍋が目に入った。
冨岡義勇
冨岡義勇
一緒に…
食べるつもりだったんだよな…
ふたをあけると、
一人ではとても食べきれない
鍋いっぱいの、鮭大根だった…。

俺の大好きな…。

Next「冷たい雨」



プリ小説オーディオドラマ