~あなたサイド~
義勇くんとの貴重な週末。
…いつの間にか寝ちゃってた。
女の子たちの声が、まだ聞こえる。
やめて…キッチンに入らないで。
そこはわたしの場所よ…!!
思わず声をあげて、
部屋から出そうになった、その時…
ようやく…
帰っていった…。
そして…
カチャ…
でもそれは、少なくとも、
こんなかたちじゃない。
ちょっと待って、
何それ…。
やだ…泣きたくないのに…。
涙が止まんない…。
義勇くんが、わたしの涙を
親指でそっとぬぐう。
義勇くんの話を、してたんじゃない。
義勇くんが女子に囲まれて…。
もうやだ。
嫉妬なんて子どもっぽい…。
わたしに添える義勇くんの手が
わずかに震えていた…。
義勇くんの気持ちが…
今は…わからないよ…。
見上げると、義勇くんの碧い目が
悲しくこちらを見つめていて…
~義勇サイド~
あなたが…
怒っているのは明らかだった。
だが、俺に湧き上がる感情が、
怒りなのか嫉妬なのか…
はたまた、欲情なのか…。
あなたを傷つけるのがこわい。
口下手な俺は、
何と言ったらいいか
わからなかった…。
今日は…手を出したら
多分止まらない。
止める自信がない。
あなたの涙が、またひとつ
ポロン…とこぼれた。
あなたのくちびるを、
指で、すりっ…とした。
あなた…願わくば、
早くこの手に抱きたい。
抱いてしまいたいんだ…。
ハァッ…。
がまんがつらい…。
バッ…
あなたが、俺の手を払いのけ、
カバンを持って飛び出して行った。
バタン…。
ドアが音を立てて閉まった。
俺は、何を言ってるんだ
こんな時に…。
あなたの去った部屋には、
あなたのいたぬくもりが、
まだありありと残っていた。
どうしたらよいかわからなくなり、
落ち着こうと、コップに水をくんだ。
すると…
いい匂いのする、大鍋が目に入った。
ふたをあけると、
一人ではとても食べきれない
鍋いっぱいの、鮭大根だった…。
俺の大好きな…。
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編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。