~あなたサイド~
義勇くんとケンカして、飛び出したわたしは、
あてもなく歩いていた。
義勇くんを想うと、
自然と涙が溢れた。
ポツッ…サァァ…
霧のような雨だった。
昔…
義勇くんの羽織を傘代わりに、
雨の中、義勇くんと寄り添って
歩いたような記憶がある。
お墓参りの帰りで、日が暮れて…。
義勇くんの大切な友達…
野原で花をつんで…。
あの時、野原で会った女の子、
禰豆子に似てたなぁ…。
気がついたらわたしは、
寮に帰ってきてた。
…着物のままだった。
~義勇サイド~
俺は、出て行ったあなたを
探して歩いた。
実家…にはいなかった。
ともすると、寮か。
この雨の中、どこを歩いているのだろうか。
冷たい雨だ。
そばで…温めてやりたい…。
あなたの部屋の灯りがついているが…
同室の栗落花かもしれない…。
門にいる、守衛に聞いてみた。
寮に帰ったのだな。
なら安心だが…。
俺は、なすすべもなく
踵を返した。
~あなたサイド~
カチャ…
お風呂から上がると、
カナヲが温かいハーブティーを
いれてくれていた。
それと、小皿にラムネ。
甘く爽やかな香りが、安らぐ…。
カナヲがこんな風に、
わたしに関わってくれるのは初めてだ。
ななな、なんでっ…!?
そう聞いてもカナヲは、
優しくほほ笑むばかりで、
何も言わなかった。
不思議…。
なんだか、カナヲは本当に
義勇くんを昔から知っているようだった。
でもそれがスッ…と、わたしの中に入ってきて、
すんなり受け入れられた。
義勇くん…。
義勇くんには、わたししかいない。
あんな風に出てきちゃって…
きっと傷つけた。
でも…
義勇くんだって、会わない方がいいとか
ひどいこと言って…。
あ~っ…
もー。
寝よっ…!!
ハーブティーとともに、
やるせない気持ちを飲み込むと、
布団にもぐり込んだ。
こんな夜に、
一人じゃなくてよかった…。
Next「義勇の誠意」
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!