「うーむ…。」
「ぐぬぬ…。」
広瀬と庄野は考える。
「うーーーむ…。」
「ぐぬぬぬぬ…。」
2人が腕を組んで考えているのはこの村でとるべき今後の行動だ。
E$CAがいるのであればそれはそれで捕獲なり殺すなりしてしまえばいいが、だからこそいないことの証明は非常に難しいのだと広瀬は庄野に説いていた。
2人は村の人間に心を開いており、E$CAがいないと勘でだが判断できたからこその悩みであった。
「いないことの証明ってほんとにどうすればいいんですか広瀬さん…。」
「俺が今まで派遣されたところは皆いたからどうにかなったんだけどな…。」
広瀬はそう呟く。
正直言って取るプロセスが単純なのはE$CAがいた場合であり、広瀬の経験則では疑惑のかけられた場所の大半がそれにあたる。
ただ今回、その経験則は使えない、否使うべき局面になって欲しくない、広瀬はそう思っていた。
「あのー、広瀬さんと庄野さん?ご飯、お持ちしましたよ。ここらの名産で作ったジビエです!ささ、食べてください!」
部屋の外から声が聞こえた。村民のうちの1人だ。広瀬はそれを取りにドアの外に出てから料理を取って戻る。
「うわー!広瀬さん美味しそうですよこれ!!!」
庄野は料理を見て興奮するが広瀬はその横で特に興奮する素振りも見せぬまま携帯食を取りだした。そして庄野の方を見て呟く。
「いいか庄野くん、村人たちには申し訳ないがこの料理に口をつけちゃダメだ。相手がE$CAならそれこそ…」
広瀬は警戒心ゆえに庄野に忠告をした…が
「え?なんですって?それより広瀬さんこれ美味しいですよ!!!」
時既に遅しとはこういうことか、と広瀬は思った。広瀬はこれはまずい、と思ったが庄野の食べるスピードが収まる気配もない。
まあ広瀬も村民を信じ切っているのもあれば今までに毒をもられたこともなかったのでそれ以上止めることはしなかったが。
「このお肉ホントにおいしいですよ!広瀬さんもどうです?」
「…一口だけなら。」
そういいつつ広瀬はジビエ料理をどんどん口に運んでいく。
特に毒や薬も盛られているようなこともなくただただ2人の中には"美味い"という言葉が浮かぶ。
「ごちそうさまでした!」
食べ終わるころには2人は満足でいっぱいだった。
そのあと彼らは作戦会議をしたにはしたが、それはあくまで村民たちが優しい人間であるという前提の話になっており、結局彼らが人間でなかった場合についての議論がこれ以上進むことはなかった。
これが命取りになるとも知らずに…。
その日の夜中、広瀬は寝付けずにいた。任務の不安からではなく朝になって村民たちに感謝と激励を伝えるのを楽しみにしていたのだ。
広瀬は気持ちを落ち着かせるべく窓の外の音に耳を澄ます。
草木が風で揺れる音…
川のせせらぎ…
虫の声…
否、それだけではない。誰かの荒い息遣いまで。
広瀬は布団から飛び起きた。この長閑な村に似ても似つかわしくない音が聞こえたからである。
広瀬の中に、もう一度不安がこみ上げる。
そしてその不安が現実であることを、広瀬はすぐに実感することになった。
「あぁ…。あぁ…。うぁ…。」
荒い息遣いを発する黒い影が窓の外に見える。広瀬が見覚えのあるそれは…
「E$CA…。やっぱりいやがったか…。」
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!