ナイフを持って全力で防護服の男…いや怪物の仲間に向かって走る。
「ああ待って待って待って待って!違う違う違う違う!」
男は特に自分で武器を構えるでもなく叫ぶ。一応はそいつも人間だ。さすがの俺もこうなれば足を止めざるを得ない。
「あぁ…?」
「わ、我々はこの危険生物の調査をしてるだけなんだ。」
「調査?」
「ああ、その段階で君にも辿り着いた。要は…」
「…要はなんだ?」
「今君がやったようなこと…つまり、この生物の数をやむ無しの場合を除いて無闇に減らすなと上に言われてるんだ。」
"言われてる"か…。ならもしかしたら…
事は、俺に有利に動くかもしれないな。
「それはお前の意志でもあるのか?」
「それは…その…。」
防護服の男が言葉を濁す。防護服越しの割にナイフ1本で脅えてやがる。だがそれ以上に…
「お前の意志かと聞いているんだ!」
「ち、違います…。違います…。」
防護服の男は怯えながらそう答える。…まあ、予想通りだったがこいつじゃ話にならない。防護服付きでここまで怯えてる奴ではな。
「そうか。でお前、仲間とか連れはいるのか?」
「い、い、い、いません!1人でき、来ました…!」
「よし、それならいい。有り金全部置いてとっとと去れ。」
「えっと今12000円しか持ってなくて…。」
「それでいい、出せ!それと、今回の調査では特に何も起こらなかったと上に伝えろ!」
「ああ、分かり…分かりました!!!」
男は防護服の胴部分を外し、その下に着ている服のポケットからくしゃくしゃのお札を3枚差し出した。それを俺が強引に奪い取ると、男は再び防護服の胴部分を着て一目散に去っていった。
「…まあ、数日は生きていけるか。」
俺は札を財布にしまい、出していたナイフにカバーをつけて上着の裏側にしまう。
しかしあの防護服が現れたということは、それはすなわち俺の素性が割れたことを意味する。それなら…
「"アレ"を、やるしかないか…。」
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!