夕方の電車は下校、仕事終わり、そんな感じの帰宅ラッシュで程よく混んでいた。俺はその中でスマホを取りだしサイコロを振るだけのアプリを起動し、画面の中でサイコロを振る。
「1か…。つまんねえな。」
出た目は1。俺はその事を確認した後、電車を降りる準備をする。
『ご乗車ありがとうございます。間もなく単橋、単橋でございます。』
少しして電車が止まる。人波にもまれながら電車から出て、改札を通り、駅の出口を出る。
「さてと…ここからどうするかな。」
時刻を確認すると午後6時を回っていた。辺りも暗く少し寒い。ここからビジネスホテルなりネットカフェなり探さなければ。降りた駅はそれなりの市街地にあるし、人も多い。そのレベルの建物を探すのは簡単だ。しかしいつかこうなるだろうと思っていたとはいえ、改めて考えると少しストレスが溜まる。
まず元々住んでいたアパートを引き払い、必要最低限の荷物だけを持つ。そして色々な場所を転々としながら、奴らを狩ってまたどこかへ行くという繰り返し。昨日アパートから出て、実質的に今日が初日だが、あまりいい気はしない。
だがやらねばならない。俺自身の…人類の為の闘いのために。
「まあ、ここにするか。」
見つけたのはWiFi搭載のビジネスホテル。建物は少し古いが、不快というレベルでは無さそうだ。中に入ろう。
「すみません。今日部屋って空いてますか?」
「空いてますよ。ご宿泊ですか?」
「はい。1泊。」
「では5400円となります。」
昨日防護服の男から奪ったくしゃくしゃの1万円を払い、お釣りと鍵をもらって指定された部屋に入る。中はそれなりだった。
「…っと。」
ホテルのWiFiに接続し、SNSを開く。検索ワードは
"行方不明"。
『15年前を境にして行方不明者、すごい勢いで増えてるんだよな。』
『俺の知り合いの知り合いも急にいなくなったって。怖っ。』
『噂じゃ未解決殺人も増えてるって話だよな。』
やはり今日も、こんな感じのコメントで溢れている。
「…お?」
1つ、気になるコメントを見つけた。いや見つけてしまった。
『行方不明者!
主人が昨日の朝会社に行くと行ったきり帰ってきていません。会社には来ていないと言うし、何度電話しても出てくれません。そしてそのまま昨日も帰ってくることはなく、今日も帰ってきませんでした。情報求めます。主人の名前は北原 博成です。どうか皆さん、協力よろしくお願いします!』
北原…。すぐに分かった。俺が昨日殺したバケモノが擬態してた男だ。添付されていた写真を見て、さらに確信に変わる。
「残酷だが、現実はな…。」
俺はその男が死んだことを知っているが、コメントをしている奥さんにその事を伝える訳にもいかないし、そもそも上手く伝えられるはずが無い。
「飯でも頼むかなぁ…。」
まあこんな文面を見るのは初めてではない。それどころか何百回、何千回と見ている。
「すみません、『明日も元気定食』出前で。」
その度に俺は少しだけ悔やむ、がすぐにそれは間違った感情だと気づく。
「だいたい40分、分かりました。すみません、ありがとうございます。」
悪いのは俺ではなく奴らだ。俺は正しいことを…人類の為になることをやっているに過ぎない。そう、それは簡単には終わらない、或いは一生かけても終わらないかもしれないが…
「全てを捨ててでも、俺が闘うしかないんだよ。」
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。