唯晴は、一度も自分の好きなものを買ったことがなかった。
みんなで遊ぶとき、お金でお菓子を買いたかったのに、父は私に1円も渡してくれなかった。
入学式からの1週間は休みらしく、特にすることもなかった唯晴は、
と思わず口に出していた。
高校生になったら、お金くれるのかな〜なんて思ってたけど、1円もくれなかった。
唯晴はその時、悪魔のような考えが天から降ってきた。
お金がないなら、欲しいものを盗っちゃえばいいんじゃないかと。
生まれて来て16年間、ずうっと我慢して来た。
唯晴は決心すると、店の中にさっと入り、お菓子を手にして、周りを確認した。そしてバックの中にお菓子を入れて、一目散に家に帰った。
自分の部屋に入り、ふくろを開ける。
袋には、「チョコレート」と書いてあった。
そう言って包み紙をとってみると、ダークブラウンの四角い物体がでてきた。
思い切って唯晴は口の中に放り投げた。
口の中でとろりと溶けていく。甘い味が口いっぱいに広がっていく。
唯晴はこんなに美味しいお菓子を初めて食べた。
そして残りのチョコレートもパクパクと口に運んだ。
その日以来、唯晴は他のお菓子にも興味を持ち、気になる度に店から盗んでいった。
その後「呪い」をかけられる事も知らないで…。
3話 終
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。