第18話

太陽の裏側
1,557
2019/07/24 08:18
陽翔くんを追い詰め、三好先輩は私を守るように前に立って彼を見据える。
疑惑の目を向けられている陽翔くんはたじろぎもせず、表情も崩さなかった。
陸下 陽翔
陸下 陽翔
……どうして、疑われてるのかな?
三好修吾
三好修吾
あの手紙の中身を抜けるのは、お前しかいない
三好修吾
三好修吾
それから、夕莉を執拗に監視してるだろ? お前は毎回夕莉の見舞いについてきたしな
三好修吾
三好修吾
確証……とまではいかないが、不自然な点が幾つかある
ジィーっと虫の声がざわめく中、緊張感だけがピリピリと肌に伝わってくる。
九井原 夕莉
九井原 夕莉
三好先輩、あまり陽翔くんを責めないであげてください
九井原 夕莉
九井原 夕莉
陽翔くんにだって、事情はあるはずだから
勇気を出して私も口を開き、三好先輩が私の前に出している腕をどける。

蝉の鳴き声が遠くなっていくような沈黙の末、陽翔くんは息を吐いた。
陸下 陽翔
陸下 陽翔
はあ……本当は言っちゃダメなんだけど
陽翔くんは窓を閉めて鍵をかけた。



外の音が遮断されて、蝉の声はほとんど聞こえなくなった。



陸下 陽翔
陸下 陽翔
……これは極秘任務だったたんだ
九井原 夕莉
九井原 夕莉
極秘任務?
陸下 陽翔
陸下 陽翔
そう、俺に任されたのは夕莉さんと三好くんの接触を防ぐこと
陸下 陽翔
陸下 陽翔
それから、夕莉さんの監視
三好修吾
三好修吾
なんで……
陸下 陽翔
陸下 陽翔
ECOでは……すでに、夕莉さんは要注意人物としてマークされてるからだよ
九井原 夕莉
九井原 夕莉
えっ……!?
九井原 夕莉
九井原 夕莉
(もう食人鬼として気づかれてるってこと?)
陸下 陽翔
陸下 陽翔
要注意人物……この言葉の意味するところは食人鬼との接触があって生き残った人物、および食人鬼の疑いがある者
食人鬼、その言葉にドクリと心臓が跳ね上がる。
三好修吾
三好修吾
それじゃあ……俺の手紙を隠したのは
陸下 陽翔
陸下 陽翔
三好くんと接触すると、夕莉さんへの注意レベルは跳ね上がる
陸下 陽翔
陸下 陽翔
だから、警告のためだけに封筒だけは残したんだ。君は監視されてるってことを伝えるために
陸下 陽翔
陸下 陽翔
夕莉さんは今、注意レベルが非常に高い状態だ
周りを気にしながら、陽翔くんは慎重に話した。
九井原 夕莉
九井原 夕莉
(監視——だから何度も不審な視線を)
黒コートの影を実際に目にしたことも、忠告めいたことを受けたこともあった。
自分で思った以上にマークされていたということだ。
三好修吾
三好修吾
その任務をお前に出したのは佐那城さんか?
陸下 陽翔
陸下 陽翔
……そうだよ。これも秘密だったけど
陸下 陽翔
陸下 陽翔
今まで黙ってて、ごめん
陽翔くんは申し訳なさそうに俯いて謝罪した。
三好先輩は溜まった息を吐くと警戒態勢を解き、腕を組んだ。
三好修吾
三好修吾
とりあえずは納得したよ。佐那城さんは俺も庇ってくれたし……
険しい表情をしていた三好先輩の緊張が解ける。
陸下 陽翔
陸下 陽翔
だから、夕莉ちゃんには夏休みの間は大人しくしていてほしい。
陸下 陽翔
陸下 陽翔
きっとしばらく動きがなければ、監視のレベルも下がるはずだし……
陽翔くんは私を気遣って事情を説明してくれた。

でも……
九井原 夕莉
九井原 夕莉
上嶋くんが……
上嶋くんが危険に晒されそうなのに、私はこのままでいていいの?




食人鬼の拠点なんて、絶対に危険に決まってる。
そこに上嶋くんの敵がいたとしても、もし、彼が——
三好修吾
三好修吾
夕莉、心配するな
三好先輩が私の肩をぽん、と叩く。
三好修吾
三好修吾
俺も上嶋についていく……それであいつが危なくなったらすぐに助ける。それでいいだろ
女の子よりも白くて綺麗な先輩の手、それが今はすごく頼もしく見える。
三好修吾
三好修吾
お前が今やるべきことは、待つことだ
九井原 夕莉
九井原 夕莉
三好先輩……
先輩は私の目線にかがんで私の手を取り、子供に言いつけるような優しい口調で言った。
三好修吾
三好修吾
夕莉はここで待っててくれ、頼む
三好修吾
三好修吾
俺だって……夕莉のことが大事なんだ
手をさらに強く握られる。


王子様の仮面も仏頂面で素直じゃない顔も全て崩して懇願するような瞳には、嘘の淀みなど一つもなくて。


ただ純粋な思いだけが、瞳の奥に光っていた。
九井原 夕莉
九井原 夕莉
……はい
上嶋くんとは違う眼差しに、不思議と心が揺れ動いた。


きっと、三好先輩なら上嶋くんを守ってくれる。





















そう、思えるからこそ。
九井原 夕莉
九井原 夕莉
——私も一緒に行きます
三好修吾
三好修吾
そう、待ってて……は!?!?
三好先輩のキメ顔が一瞬で固まり、唖然とする。
三好修吾
三好修吾
お、お前、さっきの話聞いてたよな!? 今の完全に大人しくする流れだっただろ!?
九井原 夕莉
九井原 夕莉
もちろん三好先輩のことは信用してますでも……
九井原 夕莉
九井原 夕莉
私だけ何もしないなんて、そんなことはできません
三好修吾
三好修吾
お前……
自分の意思を伝えるために私ははっきりと言い放った。どんなに反対されても上嶋くんを助けに行く。
九井原 夕莉
九井原 夕莉
陽翔くん、ありがとう。薄々気づいてたんでしょ? 私のこと……
陸下 陽翔
陸下 陽翔
……!
陽翔くんは驚くと、複雑そうに眉を寄せた。
陸下 陽翔
陸下 陽翔
夕莉さん、さっき言った通り君が上嶋くんを助けにいけば……その場で捕らえられる可能性がある
陸下 陽翔
陸下 陽翔
すごく危険が伴う行為だ。上嶋くんより、もしかしたら君の方が危ないかもしれない
静かに、淡々と陽翔くんは事実を述べる。それが紛れもない現実だからだ。
三好修吾
三好修吾
こいつの言う通り、リスクが高すぎる……! お前を連れていけない!
九井原 夕莉
九井原 夕莉
うん、でも三好先輩だけに任せっぱなしじゃダメだと思う
私は三好先輩の手を握り返して、まっすぐと先輩を見つめ返す。
九井原 夕莉
九井原 夕莉
……私は上嶋くんを助けたい
九井原 夕莉
九井原 夕莉
だから
本当は、ずるいお願いなのかもしれないけど。
九井原 夕莉
九井原 夕莉
上嶋くんを……私と一緒に助けて下さい
三好先輩は押し黙る。唇を軽く噛んで悔しそうに考え込むと、自分の頭を無造作に掻いた。
三好修吾
三好修吾
あーっ…………わかったよ。そんな風に頼まれたら断れないだろ
無茶なお願いにも関わらず、三好先輩は私の気持ちを汲んでくれた。



にいっと、先輩は不敵に笑って私に顔を近づける。
三好修吾
三好修吾
もちろん、お礼はなんでもいいよな? お前の無理を聞いてやったんだし
九井原 夕莉
九井原 夕莉
う……も、もちろん
指先で輪郭をなぞられて、びくりとする。細められた彼の瞳は狙いを定めた肉食獣みたいだった。
陸下 陽翔
陸下 陽翔
……ひょっとして俺、浮気現場を目撃してる?
九井原 夕莉
九井原 夕莉
はっ!! 三好先輩私から離れてください今すぐに!!
三好修吾
三好修吾
ちょっ、お前押すな! 叩くなー!
ぽこぽこと殴る私の攻撃を受け止めてる三好先輩は心なしかちょっと嬉しそうに見えた。






本当は怖いという気持ちもある。
命の危険を感じないわけじゃない。

少しでも気を抜いたら、震えてその場から動けなくなりそう。




でも、例え私がどうなっても。


上嶋くんを助けたいんだ。


















◆◆◆◆


バシンッ
能美川 明梨
能美川 明梨
……どうして、私の腕を払い除けたのですか?
上嶋 幸寛
上嶋 幸寛
俺を抱きしめるのは、あんたじゃない
上嶋 幸寛
上嶋 幸寛
俺には……大事な
上嶋 幸寛
上嶋 幸寛
大事な人が……
能美川 明梨
能美川 明梨
…………

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