僕は保健室を出た後、廊下を半ば逃げるように走っていた。
先程の男子生徒___彼は、中学の時…
そう。
中学の時、僕は彼にいじめられていた。
思い出したくもない過去。
消し去ってしまいたい過去。
それが今、鮮やかによみがえった。
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トイレ掃除をさせられていた僕は、彼らの汚した床を拭いていた。
男子生徒のひとりが僕を蹴った。
バシャッッ!
蹴られた衝動でバケツをひっくり返してしまった。
(ガラガラ……ピシャッ
僕は熱心に床を拭き続けた。
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思えばあの時から、人と関わることに拒絶反応ができたような気がする。
関わっても辛い思いをするだけではないか?
人にまた、都合のいいように扱われるだけではないか…
戻ろうかどうか迷う。
さっきの保健の先生だ。
そうとう僕を探したのか、額にはうっすら汗が滲んでいる。
先生は僕にプリントを渡す。
受け取ると、あの彼の声が廊下の奥から聞こえた。
僕は柱を探すが、あいにくここの階の廊下に柱はなかったことを思い出した。
と、僕の腕が誰かに引っ張られた。
先生は僕を図書室へと引っ張った。
図書室には誰もおらず、入った瞬間に
という彼の声が響いた。
先生は本棚の陰で僕を押さえている。
いや、正確に言えば、「見つからないようにかくまってくれている」。
先生の心音が聞こえる。
(ガラガラ
誰かが、入ってきた―――
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編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!