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第1話




こつこつ、と硝子が叩かれました。



重いまぶたを上げれば、水面上に微笑むあなたが居ます。寝間着からお仕事用の装いになって、モダンな眼鏡に突っかけの下駄。
わたしが目を開けたのが見えたのかな、あなたは手を振って朝のあいさつをくれました。

「おはよう、僕のローレライ」

わたしはうれしくて宙返り。尾びれが水草に引っかかったのを見て、あなたはまた笑いました。

おおきな指の先が水に浸かって、ごはんの小魚を落としてくれると、あなたは今度は少し寂しそうに手を振って、お仕事に行ってしまうの。



これがわたしの朝。
で、あのひとがわたしのご主人、そしてわたしの好きなひと。







わたしはごくふつうの、と言ってもまだまだ生まれたばかりのローレライ。



ローレライは海のいきものです。
ほんとうはこの国に住んでいるはずがないんですけれども、東欧のつめたい海で孤独に泳いでいたのを、漁師にうっかり捕まったので、わたしの奇妙な人生は始まりました。

不気味な姿のわたしは、まず旅芸人の一座、次に腕利きの人形師、お金持ちの屋敷から行商人へと売られていきました。それから舟に乗せられて、はるばる極東の島国まで。
八幡さまの夏祭りで、紅い下品な金魚たちと混ざって見世物にされていたところを助けてくれたのが、あのひとだったのです。




わたしはローレライ。名前なんてなくても幸せな、恋するローレライです。