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第8話



祐はすくすくと成長しました。
二本の足でしっかりと歩けるようになり、自分で食事をして、着替え、はきはきと喋り、家中を縦横無尽に跳ね回りました。

そうしてわずか数年で立派な人間になり、制服で幼年学校へ通い始めました。

「い、ろ、は、に、ほ、へ、と……「ろ」はローレライの「ろ」だ!」




また数年して、祐はもっと難しい学校に行き始めて、そして髪を全部剃ってしまいました。
野球の試合に出るのだと意気込み、汗と泥にまみれて帰ってくるようになりました。

わたしのことなんてすっかり忘れてしまっだろうと思えば、時折あのひとに代わってごはんの小魚をくれました。
そういうまめな所が、愛おしいのです。




祐はまた制服を変えました。

軍に入って、お国のために死ぬのだと毎夜遅くまで帰ってこなくなりました。
随分背が伸びて、日焼けした肌に父親譲りの垂れ目が際立ち、木彫りの像のような武骨な優しさを備えていました。

深緑の軍服に身を包み、帽子を被って直立した祐の姿は、もう何処から見ても立派な軍人さんでした。


宙返りをしても、彼はもうにこりともしてくれません。
……わたしが彼にできることは、もうなんにもなくなってしまったのです。





祐と対照的に、あのひとはだんだん疲れた顔をするようになり、白髪が増え、背中が曲がってきて、ある時ついにお仕事を辞めました。

腹立たしく綺麗だった女の人も、皺が増え、見る間にみすぼらしくなりました。
そしてあのひとと祐に見守られながら死にました。ああ憎くても死んでみれば呆気ないものだなあ、と思いました。





しばらくして、それまで全くと言って良いほど女っ気のなかった祐に、ようやく春が訪れました。
白無垢のよく似合う、背の低い女の子が、祐のお嫁さんでした。


その日、お下げ髪の可愛らしい女の子が、男所帯だった家に棲み始めました。あかね、というそうです。

分別のよくできた慎ましい子でした。くるくるとよく働き、筆まめで、おっとりしたお嬢さん。
いつも控えめに微笑んでは、金魚鉢の中のわたしと遊んでくれる、良い子でした。