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第30話








--永かった半生の記録を話し終わり、わたしはふうっと溜息をつきます。人工太陽の沈みかけた、無機質な夕暮れが広がっていました。

シュウトが口述筆記を止め、網膜操作でデータを静かに保存しました。それが合図でした。旅の終わりの合図でした。


ああ、旅が終わるのね、シュウト。
わたしと君の、終わらないと思ってた旅が。


覚悟は出来ていました。死はおそろしくありませんでした。シュウトと話すうち、死はおそろしいものではなくなっていました。ただ、この子を置いていくのが哀れなだけ。
あ、そういえば、自死の是非について議論するのを忘れていた。

「……馬鹿なこと言うなよ。死なないよ、おれは」

シュウト?泣いているの?

「……泣いてない」

嘘をつかないで。地獄の王様に舌を抜かれるわよ。

「泣いてないっ」

もう、強情っぱり。

今際の際で、いっそわたしは安心していました。良かった、わたしに寿命は存在したんだ。知らないうちに不老不死になっているのではないか。
その空想が、何より怖かった。



「……ローレライ」

なあに?

彼は大きく息を吸いました。声が小刻みに震えていました。わたしの視界が、ぼんやり霞んできました。



「……おれ、ローレライなしで、この密室で生きていける気がしないよ。どうしてみんな平気なんだろう、こんなに息苦しいのに……
ローレライ。君と話してる時が、一番息苦しさを忘れられた」


ありがとう、嬉しい。長生きもするものね。


「君の話は面白かったよ。……ほんとに。
南風からする花の匂い、晴れた空が高いこと、夕暮れの彩り、星座の探し方、朝日が昇る瞬間。異国の滑らかな海、玄関先の柔らかい風、人混みのざわめき、北の張り詰めた空気、赤ちゃんの匂い。
君の暮らした街の、すべて」


シュウト、君らしくない。


「ローレライっ!……君と、見たかった」


泣かないで、男の子でしょう。


「お願い、いかないで」


ひとりぼっちになんてしないわ。


「……嫌だよ」


君は頭が良いから、生きていくのが大変なんだろうね。わかるよ、って言ったら傲慢かな。


「ローレライ」




……わたしの寿命がひとより長い、って気付いた時からね、生きてる間、この目に写せるものはすべて見ておこうと思ってたの。
そしてあのひとの子孫に教えてあげようって--金魚鉢は湾曲してて、ぜんぜん正しい像じゃなかったんだけどね。

生涯のほとんどを、わたしは歪んだちっぽけな金魚鉢に閉じ込められて、何も出来なかった、何も出来ないけど--
愛してる。


「……ローレライ」


わたし、ひとが大好き。か弱くて愚かで、どうでもいいことをだらだら考えちゃうひとが、大好き。

「……」

ひとの汚いところも嫌なところも、全部ぜんぶ、金魚鉢越しに見てきた。
でもね、そんな駄目駄目な、ひとっていきものを、それでも好きになっちゃうの。





2000年分の愛を、ね、シュウト。



君に捧ぐよ。