テレサ=シンプソンを倒し、オリヴィアとディレインを正式に我が家の使用人として受け入れてから間もなく一ヶ月が経つ。
僕は、ここロヴァイン帝国のレウラ地方を治める大貴族、レイ=パートリッジ。
父が病で床にふしてから、改めてこの家の当主に君臨した。
・・・正直に言えば、ここ一ヶ月間の忙しさは並みのものではなかった。
次々と来る商談相手への対応、民達の生活の調査、他の貴族の勢力調査など。
記憶が残っていればここまで苦労することもなかっただろうに・・・。
「主様、お忙しいところ誠に恐縮ですが、レウラ地方にて発生している事件についての調査を致しませんか?」
「あぁ、あの連続殺人事件か・・・?」
「えぇ。」
二週間ほど前から、ここレウラ地方では奇妙な殺人事件が頻繁に発生していた。
被害者達には特に接点があったわけではなく、唯一の共通点は、彼らの死因だけであった。
死因は首筋の傷からの出血による失血死。
「そんなもの警察に任せておけばいいだろう。僕にはまだまだやることがあるんだ。」
眼前に並んだ書類に顔を埋める様にして僕はぼそぼそ言い訳をした。
「そう仰らないでくださいませ主様。
貴方はレウラ地方を統治していらっしゃる方です。そんな方が事件解決に乗り出さないなんておかしいと思いませんか?」
チッと短く舌打ちをする。
こいつの言うことは認めたくはないがいつも正しい。
自分の統治下で起こっている事件に対して「警察に任せる。」がおかしいのも分かってはいるのだ。
「・・・それに。」
「今回の事件の被害者の方々の死因。ご存じない筈はありませんよね?」
首筋からの出血多量・・・。
勿論知っているが・・・。
「お前まさか、一連の事件が人喰いの仕業だと言いたいのか!?」
「話が飛躍しすぎです主様。」
僕をなだめるようにして、オリヴィアは眉を下げた。
「まだ私も断言は出来ません。・・・ですが調べてみる価値はあるかと。」
全く、商談と連続殺人では話が180度違うではないか。
だが、万が一、億が一、今回の事件が人喰いの仕業なのだとすれば、話は更に重大になってくる。
場合によれば、またオリヴィアの餌になる者が増える可能性もあるわけだ。
「・・・オリヴィア、僕の羽織を用意しろ。1番最近発生した事件現場まで急ぐ。」
オリヴィアは満足げに笑った。
「畏まりました。主様。」
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。