護衛であるオリヴィアが離れると、やはり不安が心を渦巻いた。
実質10年間誰とも会っていないようなものなのだから当然な気もするが、言い訳をする訳にはいかない。
馬車の中でオリヴィアに言われたことを思い出す。
(主様、今夜の舞踏会においてパートリッジ家はかなり上層の貴族に属します。気になる方がいたら、高圧的に押し通すのも有りかと。)
【気になる方】がどういう意味かは出来れば考えたくはないが、パートリッジ家が大貴族だというのは確たる事実。
難しく考えず、気楽にいこう。
オーケストラ達が派手で特徴的な音楽を延々と繰り返し、その度に貴族どもは踊り回る。
「貴方がパートリッジ家の当主ですか?」
「初めてお目にかかれましたわ!」
「私と一曲いかが?」
どこに行っても必ず声をかけられた。やんわりと丁重に断りながらも、オリヴィアに全て喰わせてやりたい気持ちに駆られた。
僕は、きつい香水の香りと、あちこちから流れる酒の匂いに耐えながら、会場を巡った。
そして、不思議な事実に気づいた。
甘酸っぱい香りを振り撒く貴婦人。
巨体を揺らす豪商。
そんな奴等の世話をするシンプソン家の使用人達は全員、
[僕と同じ位の子供]
不思議だった。子供が使われていることではない。
子供達が妙に機械的なことが引っ掛かる。
オリヴィアと似たような仮面を被った使用人達が、会場のあちこちを駆け回る。
シンプソン家の財力ならば、大人の使用人位湧水ほどに雇えるだろうに何故・・・?
「お客様。」
声をかけられ振り替える。
「お水でございます。先程からダンスに参加していらっしゃらない様子ですが、気分が宜しくないのですか?」
僕よりもずっと小さい男の子が、水を持って突っ立っていた。
彼もまた、この屋敷の使用人の一人か。
「心配ありがとう。僕はダンスはあまり好きではないのでね。気にしないでくれ。」
「それは失礼致しました。どうぞ今宵の舞台をお楽しみくださいませ。」
少年は丁寧に一礼すると人混みに消えた。
やはり、おかしい。記憶がすっぽり抜けた僕が言っても信憑性がないかもしれないが、あまりにも機械的すぎる。
今の少年には、年相応の子供らしさが微塵も感じられなかった。
洗脳にしては完璧すぎる。本人の意思とも思えない。
僕は羽織の裏にこっそり忍ばせた拳銃にそっと触れた。鈍く黒光りするオリヴィアの代理。使うことがなければいいんだが。
人目を気にしながら緞帳の裏に身を潜める。
このきらびやかなショーの裏には何があるのか。
テレサ=シンプソンを消すだけでは分からないことが山積みな気がするな。
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。