第58話

傲慢な主人とその護衛の真意
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2021/05/28 10:33
リズがかつてないほどの自信たっぷりな様子で僕らを導く。
大通りを抜け、裏路地に入ると、ワルムアの陰気な部分が浮き彫りとなっていた。
道のあちらこちらに帰る場所のない者達がうずくまり、ささやかな恵みを求めて這いずる。

きっと彼らも、好きでこんな生活をしている訳ではあるまい。

...流行り病も負担にはなっているのだろうが、民を守るのが、領主の役目ではなかったか。マニングよ。

「...僕、この人達を全員助けるまで死ねないんだよ。何としてでも。」

自信に満ち満ちていた顔がすっと沈み、リズが呟く。
その瞳には、間違いなく寂しさもあったが、行き場のない怒りと悔しさもふつふつと沸いているようだった。

彼女の強い正義感と、状況を変えたいという強い意志は、一部の人々にはよく伝わっているようで、通りすがる民達は、時折僕らに優しい笑みをくれた。

「なあ、貴族さん。」

「何だ。」

「僕のツテを最大限に使い込めば、この病に苦しむ人達を救えるか...?元の普通の生活に戻れるか...?」

不安げな顔。
その表情を見て、彼女の本当の目的を、僕は何となく悟ることができた。

僕達に近づいて、護衛に付きたいと言ってきた理由。全ては僕を自分の協力者にするためだったのでは...?
僕は貴族。町の用心棒よりは、間違いなく強大な権力を保持している。
彼女はそれに目を付けて、僕に付くことで、自分の信頼のおける探偵の元へ...

考えすぎかと思い、ちらりと彼女を見る。

「...お前。」

「そっそんな顔するなよ貴族さーん!!僕だってここの住民だし、一刻も早く町が元に戻ってほしいに決まってるだろー?」

まあ...いいか。

仮に彼女が、本気で武力行使の暴れん坊を演じているのだとすれば、僕はまんまと騙された訳だ。
大人しく、事件解決に勤しんだほうが賢明かもしれない。

「ああ、そうだな。早く行こう。僕もこれ以上厄介事を溜め込むのはごめんだ。」

オリヴィアが未だかつてないほどの不服顔でついてくる。

(主様。探偵ごっこは結構ですが、先程から面倒そうなお客様が十名ほど後をつけていらっしゃるようですよ?)

「はいはい分かった。追っ払ってこい。どうせ離れても僕の居場所は分かるだろ?後から追ってこい。」


「...畏まりました。」

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