主様から離れて、人混みをわけて進む。
きらびやかなシャンデリア、庶民には一生縁のないであろう食事に酒。
この世の欲を全て詰めこんだような場所。
「あんたがパートリッジ家のハウスメイド?」
「バトラーはどうしたのよ?」
「ちょっとあたしのカクテル取ってよ。」
あらゆる者達に話しかけられた。その度に丁重に断りながら進む。
話しかけてきた者達を全員食い散らかしてやりたい気持ちに駆られたがぐっと堪えた。
今の私には主様が居て、自由ではない。
でも、ある程度の制限があるからこそ、自由に価値が見出だせるものだ。
ただひたすらに自由を求める人生なんてつまらない。
今夜の私は舞踏会を楽しみに来た訳ではない。ただの食事だ。
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幕の裏に滑り込もうとしたとき、主様がやつれたお顔で歩いてきた。
「主様、お疲れの様ですね?」
「僕の体調なんてどうでもいい。それよりも、この舞踏会はおかしい。本来の目的は欠かさずに、この舞台の子供達の秘密を暴け。」
やはり、主様は気づいておられたか。
子供が貴族の餌になることは不思議ではない。安い賃金で長時間労働をさせることができるため、この町では特に多い。
だとしても、この舞台で働く子供達はもはや子供達とは言えないほどに機械的だ。
「・・・主様のお望みの結果をお届けすると誓いましょう。」
「当たり前だ。ほらさっさと行け。」
「それでは、失礼致します。」
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緞帳の裏に身を滑らせる。
闇が私を包み、オーケストラの音色と、貴族達の会話がくぐもって聞こえた。
緞帳の裏は、いわば使用人達の空間。
緞帳一枚で、世界は完全に区切られている。
辺りを見渡しても薄暗い部屋にぽつりぽつりと備蓄用の品々が並んであるだけだった。
足元に気を付けながら、暗い廊下を突き進む。
私が廊下を進むきしきしという音だけが響いた。
・・・備蓄用の品々しかなかった廊下が少しずつ変化してきた。
世界のあらゆるおとぎ話をかき混ぜた様な不思議な廊下。
ついたり消えたりするランプ。
片耳のとれかかったウサギのぬいぐるみ。
蝋が溶けかかった蝋燭。
縫いかけの人形用のドレス。
やぶれかけた真っ赤なカーテン。
ヒビの入った鏡。
無秩序に見えるが、たった1つの共通点は
【どれも中途半端】
ということだ。
ぬいぐるみもドレスもランプもカーテンも、何一つとして完璧な物がない。かといって、完全に壊れている訳でもない。
「・・・!」
見つけた。あるとは思ったが。
無秩序な品々を乗り越えた先には、山のように積み重なった、
子供の使用人の山があった。
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。