誰もが知る大貴族、パートリッジ家。
パートリッジ家の本宅は、その有り余るほどの権力と財力を表明するかの如く巨大な豪邸である。
この豪邸はかれこれ数百年前に当時の当主の命によって建てられたものらしい。
どこからどうみても紛れもなく大豪邸な訳だが、最近はその豪邸に異変が見られている。
最初の異変はおよそ10年前。
当主のパートリッジ家当主、ラエル=パートリッジが病により亡くなったと発表された頃からだ。
当時の民衆達は、偉大なる当主ラエルの死を悼み、弔いの祈りを捧げた。
そしてパートリッジ家は、ラエルの実の弟に実権を握られ、今に至る・・・・
これが民衆達の知るパートリッジ家の近年の出来事である。
だが実際、事実は全く異なっていた。
ラエルの弟に実権が渡ったのは紛れもない事実だが、弟は、この豪邸を継ぐほどの器量は持ち合わせていなかった。
そして、悩んだ彼が出した結論は、当時まだ3歳であったラエルの息子レイに、権力を相続させるということだった。
こんな赤ん坊に莫大な権力を握られるということが発覚すれば、民衆達は間違いなく暴動を起こすだろう。
それだけは避けたいと考えていた彼は、自分の屋敷に勤めるメイドや執事十数名と、以前政治に関わっていた者を屋敷に残し、国外に逃走した。
逃亡する直前、彼は屋敷に残した者達にこう告げている。
「レイが10歳になるまでは政治を代行し、世話をしろ。代行といっても、レイ本人にも教育を怠ってはならない。
10歳の誕生日を彼が迎えたら、全員国外に逃走しろ。そこからは私が用意した者が全て仕事をする。」
自分は国外に責任逃れをするくせに、まぁひどい言い種だ。
だが従順な従者達は、彼のいう通り、当主が10歳を迎えるまで政治を代行し、政治はラエルの弟がしているように見せかけ、レイを成長させた。
10年間民衆の前にレイが現れなかったのは、病弱だからという理由を埋め込んで。
そしてついに10年目。
従者達は指示通り、夜中の内に全員逃亡した。
中には情が移り躊躇った者も多かったらしいが、それでも全員いなくなった。
レイ様はどうなるのか?いきなり私達がいなくなって混乱なさらないか?
あらゆる心配を心に残して。
案ずるでない。
10年間生活を共にしてきた従者達には悪いが、この一夜で、彼の従者達への記憶は全て抹消される。
都合の悪い部分は消され、新しく、この【私】の記憶が上書きされるのだ。
逃げ出した従者達と入れ替わるように、屋敷に足を踏み入れるは、
これからパートリッジ家当主、レイの完璧な従者となるメイドである私、
オリヴィア=ブラットリー
である。
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。