「改めて、ようこそ僕の事務所へ。わざわざご足労ありがとうございます。」
暖炉の炎に照らされて、彼の顔は怪しく光っていた。
「パートリッジ家ともあろう方が、どうして僕の元へ?」
「...ああ、君が優秀な探偵殿だと伺ってね。僕の手に負えない事件の解決に、一役かってくれないかと思った次第さ。」
主様は、年上の人間にも臆せず淡々と話を進める。彼らの静かなる心理戦が繰り広げられる中、私は手持ちぶさたで突っ立っていた。
主様も、探偵も、相手のことを探りつつ話を進めている。
お互いに、お互いを信用できないといった所か。
しかしまあ、主様ともあろうお方が、初対面の少女の紹介で探偵に頼るとは。
余程追い詰められていると見える。
意味もなく部屋を眺めていると、探偵の背後にそびえる大きな本棚に目が止まった。
...ここまで、本のカテゴリーが偏ることはあるのだろうか。
【魔術】 【魔法】 【悪魔】
目に止まるのは、そんな単語ばかりだった。
ただのオカルト好きなのか、はたまた、本気でこれらの物に興味があるのか...
人間にとって、魔術も魔法も悪魔も鬼も、夢幻であろうに...
「...な、オリヴィア。」
「...!?」
突如話を降られ、錯乱する。
「話ぐらい聞いておけ。」
「...すみません。」
なにやら話に一段落ついたようで、探偵は興味深そうに頬を撫でた。
「...まとめると、この辺りで多発している病、M.R.Eの解決を望んでいる、ということですか。」
「...ああ。」
「ただ、この流行り病の解決は、一筋縄ではいかない。薬の投与だけで済むのならとっくにやってる。」
「そこでだ。」
「この未知なる病の解決に、君の協力を仰ぎたい。」
...分からない。主様が素性も分からぬ探偵に国家が動くかもしれない事件の解決を任せるのが。
その気になれば私がこの病の原因をあぶり出すことが出来る。きっとそれは、主様も分かっている。
何故、身近な駒を活用しないのか...
「中々、大きなお話ですね。だが、興味深い。分かりました。お力になりましょう。」
「ありがとう。この話は、くれぐれも内密にな。」
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。