第61話

傲慢な主人と私立探偵Ⅲ
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2021/09/24 08:36
「やあやあ、よくいらっしゃいました。ここまで来るのに大変でしたでしょう。どうぞ、おくつろぎください。」

僕の目の前にいる私立探偵は、僕が思った以上に若かった。

まだ20代半ばといった所か。
13の僕が言うのも何だが、こんな若い探偵に、国一つが動く規模の事件の解決など出来るのだろうか。

耳下辺りまでの短めの茶髪。
深い深い緑眼。

「ようこそ。僕の事務所へ。
僕はアラン。アラン=ヴィトックです。」

静かな笑みと共に、アランが片手を差し出す。そっとその手を握ると、幼児のごとく暖かい手に驚いた。

「やあ、初めまして。僕は、」




「レイ。レイ=パートリッジだ。」

彼の表情に一瞬緊張が走った。
その後、固くなった表情筋がふわりと緩む。

「パートリッジ、ですか。素敵な姓名をお持ちのようで。」

「リズ、アリス、悪いが、少し二人にしてくれないか。」

えぇ!?と、いかにも不服そうなリズ。
僕の名に驚きを隠しきれない様子の女性は、アリスと言うらしい。

「...分かったよ。ほらリズ、何か作ってやるよ。こっちおいで。」

アリスは横目でこちらを見てから、ぶぅぶぅと文句を垂れるリズを連れていった。

「すみませんね、待たせてしまって。」

若い探偵はぐっと顔を近づけて、その緑の目で僕を覗き込んだ。
僕の心までもを見抜きそうな美しい色だった。

「それで?
大貴族パートリッジ家の当主である貴方が、わざわざその身を明かすほどの大惨事が、どこかで起こっていると?」

ゆらり揺れる深緑と、甘い匂いが僕を包んでいった。

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