「やあやあ、よくいらっしゃいました。ここまで来るのに大変でしたでしょう。どうぞ、おくつろぎください。」
僕の目の前にいる私立探偵は、僕が思った以上に若かった。
まだ20代半ばといった所か。
13の僕が言うのも何だが、こんな若い探偵に、国一つが動く規模の事件の解決など出来るのだろうか。
耳下辺りまでの短めの茶髪。
深い深い緑眼。
「ようこそ。僕の事務所へ。
僕はアラン。アラン=ヴィトックです。」
静かな笑みと共に、アランが片手を差し出す。そっとその手を握ると、幼児のごとく暖かい手に驚いた。
「やあ、初めまして。僕は、」
「レイ。レイ=パートリッジだ。」
彼の表情に一瞬緊張が走った。
その後、固くなった表情筋がふわりと緩む。
「パートリッジ、ですか。素敵な姓名をお持ちのようで。」
「リズ、アリス、悪いが、少し二人にしてくれないか。」
えぇ!?と、いかにも不服そうなリズ。
僕の名に驚きを隠しきれない様子の女性は、アリスと言うらしい。
「...分かったよ。ほらリズ、何か作ってやるよ。こっちおいで。」
アリスは横目でこちらを見てから、ぶぅぶぅと文句を垂れるリズを連れていった。
「すみませんね、待たせてしまって。」
若い探偵はぐっと顔を近づけて、その緑の目で僕を覗き込んだ。
僕の心までもを見抜きそうな美しい色だった。
「それで?
大貴族パートリッジ家の当主である貴方が、わざわざその身を明かすほどの大惨事が、どこかで起こっていると?」
ゆらり揺れる深緑と、甘い匂いが僕を包んでいった。
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。