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第65話

傲慢な主人と寡黙な私立探偵
79
2022/12/18 11:22
「M.R.E。この地を脅かす未知なる感染症...。実を言うと、僕は既にこの病について多少探りを入れておりました。」

探偵はそう言うと、静かにカップに口をつけた。

「流石は探偵。速いな。」

「当然です。こんな珍妙な事件を放っておくわけにはいきませんからね。」

「それで?お前の独自の考察を聞かせてくれ。」

探偵はそれを聞くと、戸棚から大量の紙を取り出した。掠れていたり、文字が不鮮明だったりする上に、細かく書き込みがされていたりして、非常に見づらい。

「これが、僕が集めたこの病に関する情報です。」

「本来なら、一般人が持っているはずのないものも混じっていますから、おさわり厳禁ですよ。」

「これをよくご覧ください。」

探偵は、紙の束の一番上を引っ付かんでテーブルに広げてみせた。そこには、おびただしい数の人の名前と、その人に関する個人情報が記載されていた。
ここに記載されているのが全て、この地方の人々だということが一目で分かる。
ワルムア地方の人々の名字は、癖のあるものが多い。

「これは、M.R.Eに侵された全ての住民の名前です。」
「何かおかしいとは思いませんか?」

オリヴィアもまた、興味深そうに資料を覗き込む。

「いらっしゃいません。」

「え?」

突然口を開いたオリヴィアに、思わず振り替える。

「サリヴァン家に関わる人が、この資料には一人も記載されておりません。」

そう言われてもう一度資料を目に穴が空くほど観察する。...本当だ。
サリヴァン家は、僕らパートリッジ家と違って、血縁者の数が圧倒的に多い。サリヴァンの名を賜っていなくても、大元を辿ればサリヴァン家に行き着く者など大勢いる。
今までこの家系は、この人数を活かして繁栄してきた。

「あんなに大勢いるサリヴァン家から、この病の患者が一人も出ないなんてあり得ないと思いませんか?」

資料をとんとんつつきながら、探偵は訝しげに言う。

「こんなことを貴方にいうのも不躾だとはわかっておりますが....」






「私は、今回の騒動は、サリヴァン家が一枚噛んでいると考えております。」

探偵の言葉に、つい先日会ったばかりのマニングの苦悩の表情がよぎる。

「だが、サリヴァン家は.....」

「貴方様がこの話を信じられないのも当たり前の話です。」

僕の言葉を遮るように、探偵は続ける。

「私が貴方に協力することを決めたのも、私の仮説を立証するためです。」

「サリヴァン家の隠す何かを、暴き出しましょう。」

探偵の目が、この話が冗談でも何でもないことを物語っていた。

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