朝食が終了してから、いくつかの質問をリアに行った。
年齢、出身地、好きな食べ物、被害者との関係など。
たわいもない会話を続ける中で、リアの少しずつ笑顔を浮かべる回数が増えていった。
好きな食べ物はスコーンだと、嬉しそうに話してきた。
「昔、大好きな人によく作ってもらっていたんです。」
「そうなんですね・・・」
今日の尋問も、特に大きな収穫は無かった。
仕方ない、出来ればこれはしたくなかったが・・・
これ以上彼から有益な情報が得られないなら・・・。
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「・・・オリヴィア!!!」
リアへの尋問が終了し、ディレイン、リア、主様を寝かせた丑三つ時、主様が部屋に飛び込んできた。
「主様、どうなさいました?」
珍しく主様はひどく焦っており、肩で息をしていた。
「・・・また・・・被害者が出た・・・、次はレウラの北部で双子の女性だ・・・!」
少し、信じられなかった。
「今発見されたらしい!遺体は倉庫の奥に入れられてて・・・!」
主様はあまりの慌てぶりにその場で腰をおろしてしまった。
「・・・困りましたね。こんな頻度で事件が起きて、さらに現場同士の距離もかなりある。とても人間の為せる所業ではありません。」
私は主様の背を撫でると、普段なら決してあり得ない勢いでリアの部屋の扉を開けた。
「・・・これはこれは。」
人喰いは人間とは違って多少の能力を持っていることが多い。
私の場合も例外ではなく、この部屋の扉と窓に人間には開けられないような細工をしておいた。
・・・はずだが。
部屋はもぬけの殻で、部屋の上部、リアの身長では絶対に届かないであろう位置にある窓が開け放たれていた。
「・・・な!?いないだと!?オリヴィアの力で封鎖していたというのに・・・!!」
「オリヴィア!!あの男の居場所を突き止めることは出来るか・・・!?」
部屋に残された多少の匂い、位置が変わった品々等・・・
「主様、それは不可能ではありませんが、私の力を持ってして封じ込めることが出来なかったのであれば、相手は人喰いの可能性が高いです。」
「仮に【野良犬】ならば、弱体化している私よりも強い可能性があります。」
「ならどうしろと・・・!?」
主様が悔しそうに拳を握りしめる。刻一刻と、彼がこの屋敷から遠ざかっていく・・・
「主様、お願いがあります。一時的に私との契約を緩めてください。」
「・・・え!?」
「そうすれば、私の能力は元のレベルまで高まります。彼を捕まえることも可能でしょう。」
「・・・僕から離れないか?」
今までで一番に、主様が辛そうな顔をなさっていた。
人間の気持ちを完全に理解することは出来ないが・・・
それでも・・・
目に涙がいっぱいにたまった主様をそっと抱き寄せた。
不安で背中が震えていた。
「どんな状況下でも、私は主様の物です。大丈夫。」
「・・・分かった。」
主様が一気に立ち上がった。
涙は引いていた。
「オリヴィア!!お前との契約を一時的に緩める!!」
「あいつを、捕らえろ!!」
私の髪を束ねていた赤いリボンが弾きとんだ。
髪の毛が一気に広がって、顔に絡み付いてきた。
人間からの束縛が解除された今の私ならば・・・
窓に飛び乗り手をかける。
「行って参ります。」
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。