第21話

傲慢な主人と血気盛んな野良犬Ⅲ
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2021/02/13 01:06
この事件を目撃した第一発見者・・・そう呼ばれた【奴】は扉から出てきた。

「あの・・・僕知ってることは全部話したと思うんですけど・・・」

現れたのはつぎはぎだらけの服に、痩せ細った腕を覗かせた少年だった。
髪は黒く長く、片目が隠れていた。

鈍い紺色を浮かべた瞳を浮わつかせながら、少年はいかにも嫌だという風に身を退いた。

「彼が今回の事件の第一発見者のリア=アベラールです。」

刑事は手元にあった資料を出しながら説明を続ける。

「年齢は15歳、住所は不定。ここの靴屋のお嬢さんに厄介になっていたらしく、先日の朝に会いに来て、彼女が犠牲になっていることに気づきました。」

15歳とは思えないほど彼は華奢だった。
確かに僕より顔立ちも大人びているし背も高いが、浮わついた瞳が彼を僕より年下のように見せていた。

「はじめまして、リア。僕はレイ=パートリッジ。今回の事件について教えてほしい。」

僕は怯えるリアに手を伸ばした。こういうときは先陣を切った方がいいことを僕は知っている。
でもリアは、【パートリッジ】という言葉を聞いてから血の気が引くように青くなった。

「え・・・?パートリッジって、あのパートリッジ?ここいらの領主の・・・?」

「まぁ、一応そうなるが・・・それがどうかしたのか?」

「ごめんなさい・・・パートリッジ家の貴方にはお話することなど何もありません・・・!」

は?

リアは涙を浮かべてその場にしゃがみこんでしまった。

パートリッジ家の人物だから情報提供ができない?どういうことだ?

すると、先程から剣の切っ先のように冷ややかな目でリアを見つめていたオリヴィアが口を開いた。

「主様、理由は分かりませんが、今の貴方様にこいつが口を割ることは恐らくないでしょう。」

「でも・・・!」

「ですからここからは、私に彼への質問をさせて頂けませんか?私は当主ではなく従者。当主に話すよりは幾分か気も楽になるでしょう。」

「ここで長々と話すのか?」

僕ははっきりとした嫌悪感を伝えた。
別にここが民家だからという訳ではない。ただ、部屋に染み付いた血の匂いが当時の状況を思わせるようで辛かった。

そしてもうひとつ血の匂いが好きではない理由が・・・

あれ?

何だったか。僕は血の匂いが嫌いな明確な理由があったはずだが・・・

「ここがお嫌でしたら一度こいつと共に屋敷に戻るのはいかがでしょう。我が家でじっくりと尋問をしても宜しいのでは?」

意識がオリヴィアに引き戻された。

リアの意思など関係なしにオリヴィアは話を続ける。
こういう目的のためなら周りを一切顧みないところは、いかにも人ではないという気がする。

「・・・分かった。リアには悪いが多少強引になってでも彼を馬車に乗せろ。刑事には僕から話をつけておく。」

「畏まりました、主様。」

オリヴィアがうずくまるリアを引いて立ち上がらせる。

「止めてくださいよぅ・・・パートリッジ家の人には何も話せないんですぅ・・・」

リアはべそをかきながらオリヴィアに連れていかれた。

刑事が血相変えてとんでくる。

「レイ殿!いくら領主とはいえ証人を連れて帰るなど・・・!」

「最初の事件が発覚してから既に二週間は経過している。
その間に解決が出来なかった無能なお前の代替わりとして僕が動いたんだ。今更口出しするんじゃない!」

そう、本来なら事件解決は刑事の仕事。
でもいい、舞踏会に参加して皆の前で踊るよりは、こっちの方が余程性に合っている。

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