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第1話

ずっとお前が好きだった…!
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2020/03/28 18:41
高校の卒業証書を渡されたあの日……
相楽大和
相楽大和
ずっと、お前が好きだった…!
西山結衣
西山結衣
え……
相楽大和
相楽大和
卒業しても離れたくない。
彼女になって、これから先も俺のそばにいろ!
  ・
  ・
  ・
――それは7年前の、淡い思い出。
高校の校庭に立った途端、甘酸っぱい思い出があふれてくる。
西山結衣
西山結衣
(…幼馴染としてそばにいたのに、
あの時まで気づかなかった)
相楽大和(さがら やまと)は、家が近所の同級生で、

小さな頃から家族同然で育った仲だった。
やんちゃなガキ大将だったけど、正義感が強くて、

友達を守るためなら、平気で上級生とケンカしてた大和。
そんな大和を、止めるのが私の役割だった。
西山結衣
西山結衣
彼女になって、そばにいろ、か…
西山結衣
西山結衣
(あのまま、ずっと一緒にいられると思ってたのに…)
校庭で咲き誇っている桜はあの時と同じまま……

薄紅色の花びらを風に散らせていた。
  ・
  ・
  ・
同窓会に参加するため、久々に母校を訪れた。
教室に入ると、懐かしい面々が顔を揃えている。
菊池絵里
菊池絵里
結衣!
西山結衣
西山結衣
えりちー!
明るい声がして、高校時代からの親友である

菊池絵里こと、えりちーが駆け寄ってきた。
菊池絵里
菊池絵里
久しぶりだね!
西山結衣
西山結衣
えー、3か月前に飲んだでしょ。
結婚の報告された時
菊池絵里
菊池絵里
あー、そうだった
菊池絵里
菊池絵里
結婚報告しまくって、いろんな人と飲んでるから、
久しぶりな気がしちゃって
えりちーの薬指には婚約指輪が光る。
半年後に、結婚式を挙げることが決まっていた。
西山結衣
西山結衣
(本当に幸せそうだなぁ)
西山結衣
西山結衣
(私も、せめて…好きな人くらい
見つかるといいんだけど)
勤めている会社は仕事が忙しくて、

今まで2人ほど付き合ったけれど……結婚まで考えられなかった。
……で、そのまま現在に至る。
沙希
沙希
え、なになに?
結衣、結婚するの?
西山結衣
西山結衣
わ、私じゃなくてえりちーだよ!
沙希
沙希
えっ、えりちー結婚するの!?
きゃー、マジだ!指輪してる!
えりちーを囲んで騒いでいると……
市之瀬航太
市之瀬航太
お前ら、相変わらずうるさい
ドアが開いて、低く通る声が響いた。
西山結衣
西山結衣
(あ…市之瀬先生…)
あの頃と、全然変わってない。
7年前と同じ、冷たいくらいのクールな眼差しに、

一瞬で時が戻った様に錯覚してしまう。
遼
うわ、市之瀬!
なつかしー!
市之瀬航太
市之瀬航太
呼び捨てにするな
あの頃みたいに、素っ気ない先生にみんなが笑った。
隼人
隼人
市之瀬先生だと、「せ」が続いて呼びづらいって、
あの頃から言ってんじゃん
市之瀬航太
市之瀬航太
だからといって、呼び捨てを許す理由にはならない
冷静な切り返しも、あの頃のままだ。
  ・
  ・
  ・
――高校3年の夏――
産休の先生に代わって、私たちの担任をすることになったのが市之瀬先生だった。
市之瀬航太
市之瀬航太
俺みたいなヤツのせいで、人生左右されるようじゃ
先が思いやられるな
受験前の微妙な時期。

しかも23歳の新米教師にクラスが動揺する中、

そう言い放ち、教室の空気を凍りつかせた伝説を持っている。
だけど、容赦のない指導に目が覚めた生徒は、成績が上昇。

そのことが噂になり、市之瀬先生はさながら学業成就の神のように崇められていた。
  ・
  ・
  ・
西山結衣
西山結衣
(あの時、私は…
皆と違う気持ちでいつも先生を見てた)
整った顔立ちと、同級生たちとは違う大人の雰囲気。

いつの間にか惹かれる様になっていた。
数学が必要な志望校に変更したのも、担当の市之瀬先生と話がしたいため……。
西山結衣
西山結衣
(我ながら単純だけど、
志望校もワンランク上の大学に受かったし)
西山結衣
西山結衣
(指導してくれた市之瀬先生のおかげだな)
沙希
沙希
あ、でも結衣は呼び捨てじゃなくて
市之瀬先生って呼んでたよね
西山結衣
西山結衣
(少しでも、先生に気に入れられたかったからなんだけど…)
照れくさく思っていると、市之瀬先生が唇の右端を上げた。
西山結衣
西山結衣
(あ……笑い方もあの頃のままだ)
市之瀬航太
市之瀬航太
今日は質問しないのか、西山
西山結衣
西山結衣
(え…!)
  ・
  ・
  ・
――7年前――
あれは、進路相談の後だったと思う。
西山結衣
西山結衣
…先生は、彼女はいるんですか?
市之瀬航太
市之瀬航太
いない
手元のファイルに資料を戻しながら、先生が言う。
素っ気なくても、全然気にしない。

先生が答えてくれた嬉しさで、私は胸がいっぱいにだった。
西山結衣
西山結衣
(よかった、いないんだ)
西山結衣
西山結衣
じゃあ、先生の好みは…?
市之瀬航太
市之瀬航太
特にない
西山結衣
西山結衣
じゃあ……
市之瀬航太
市之瀬航太
西山
先生が静かにファイルを閉じた。
西山結衣
西山結衣
は、はい
市之瀬航太
市之瀬航太
早く帰れ
西山結衣
西山結衣
(調子に乗りすぎちゃったかも…)
西山結衣
西山結衣
すみません…
市之瀬航太
市之瀬航太
…………
沈黙が苦しい。
西山結衣
西山結衣
(帰った方がいいって、分かってるけど…)
でも、もう少しだけ先生のそばにいたくて、席を立てない。
先に、根負けしたのは先生の方だった。
市之瀬航太
市之瀬航太
……西山
西山結衣
西山結衣
はい?
先生の唇の右端が、笑うように持ち上がる。
市之瀬航太
市之瀬航太
もっと大人になったら、相手にしてやる

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