第7話

心にいるのは…誰?
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2020/04/02 20:00
日が暮れて同窓会が終わると、みんなで二次会へ向かうことになった。
菊池絵里
菊池絵里
結衣も行くでしょ?
返事をしようとしたその時、校舎の窓に明かりがついているのが見えた。
西山結衣
西山結衣
(あそこ、教員室だよね…)
もしかしたら……そう思った瞬間、体が勝手に動いていた。
西山結衣
西山結衣
私、少し遅れていく!
ごめん。場所が決まったらメールして
菊池絵里
菊池絵里
あっ、結衣!
軽く手を振って、駆け出す。
先生のことになると、心があの頃に戻ってしまう。

高校の時、先生を追いかけていた時とまるで変わらない。
でも、それだけじゃない。
――『お前がまだその気なら、相手にしてやる』
西山結衣
西山結衣
(まだ、先生に聞いてないことがあるから…)
  ・
  ・
  ・
西山結衣
西山結衣
先生っ!
市之瀬航太
市之瀬航太
何してる。
二次会に行かなくていいのか?
西山結衣
西山結衣
…先生に会いに来たんです
市之瀬航太
市之瀬航太
変わらないな。お前は…
ふっと小さく笑った先生が、肩をすくめて歩き出す。
西山結衣
西山結衣
どこに行くんですか?
市之瀬航太
市之瀬航太
研究室だ
市之瀬航太
市之瀬航太
せっかく来たのに、行ってないだろ?
そういえば、教員室と屋上だけじゃなくて、研究室にもよく押しかけてたっけ。
西山結衣
西山結衣
はい!
先生の後ろ姿を懐かしく思いながら、私もは後に続いた。
  ・
  ・
  ・
西山結衣
西山結衣
(相変らず、きれいに整頓されてる…)
数学課教員の研究室の中を見回していると、

先生がコーヒーを置いてくれた。
西山結衣
西山結衣
コーヒーを淹れてもらえるなんて、初めてですね
市之瀬航太
市之瀬航太
前は生徒だったからな。
特別扱いするわけにはいかない
なんだか不思議だ。
私の中で市之瀬先生は今でも先生だけど、

先生にとって、私はもう生徒じゃないんだ。
市之瀬航太
市之瀬航太
西山
西山結衣
西山結衣
はい?
市之瀬航太
市之瀬航太
俺に聞きたいことがあるんだろう?
何もかも、見透かしたような目。
西山結衣
西山結衣
…か、からかってるんですか?
市之瀬航太
市之瀬航太
さぁな
先生はニヤリと唇の右端を上げた。
西山結衣
西山結衣
(あの頃から、私が先生を好きなこと、
きっと先生は気づいてる)
西山結衣
西山結衣
私の気持ちはとっくに、知ってますよね?
たまらず気持ちをぶつける。
ふいに市之瀬先生の眼差しが、すっと冷ややかになった。
市之瀬航太
市之瀬航太
からかってるのは、どっちだ?
西山結衣
西山結衣
え…?
西山結衣
西山結衣
私が、先生をからかう?
先生が何を言ってるのか分からない。
西山結衣
西山結衣
からかってるのは先生です。
私、先生をからかうなんて一度も…!
市之瀬航太
市之瀬航太
なら聞く。
卒業してからどれだけ俺のことを思い出した
市之瀬航太
市之瀬航太
よくて一、二度。
実際、同窓会が開かれるまで忘れていたんじゃないのか?
そんなことは……、そう言いかけた唇を噛みしめる。
先生のことが大好きだった。
でも、卒業してからは?
市之瀬航太
市之瀬航太
毎日が忙しくて、いつの間にか
俺のことは『思い出』になっていた
市之瀬航太
市之瀬航太
そんなところだろ?
西山結衣
西山結衣
先生っ、私は……
市之瀬航太
市之瀬航太
別に責めてるわけじゃない
市之瀬航太
市之瀬航太
だが、いい加減…思い出からも卒業しろ
市之瀬航太
市之瀬航太
お前の心にいるのは、誰なのか。
ちゃんと向き合え
市之瀬航太
市之瀬航太
そうしないと…
先生が、窓から校庭を見下ろす。
視線を追うと、そこには桜の木があった。

そして、薄紅色の花の下には……
西山結衣
西山結衣
大和…

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