手からコーヒーマグが取り上げられる。
指先が微かに触れたけれど、すぐに離れていった。
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……結衣が出ていき、静かになった研究室にため息が響いた。
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私は息を弾ませて、桜の木のそばへ駆け寄った。
桜の木に身体を預けていた大和が、やわらかく微笑む。
言われるがまま差し出した手のひらに、キーホルダーが置かれる。
照れくさそうに笑った大和が、私の髪についた桜の花びらをそっと払った。
でも、その声を大和は遮る。
けれど、大和は気まずそうに目を伏せる。
大和は『最後』だとは繰り返さず、ただ切なげな笑顔を浮かべた。
この7年間、大和に会えないのが辛かった。
でもそれは……私が大和を傷つけたから、仕方がないって言い聞かせてきた。
ぽんと大和が私の頭を叩く。
明るい声を響かせて、大和が背を向ける。
もう伝えても遅いのに。
そう思うけれど、溢れてくる想いが止まらない。
振り絞るように言うと、大和が脱力したようにしゃがみ込んだ。
大股で戻ってきた大和が、むぎゅっと私の頬をつねる。
大和に抱き寄せられて、唇を塞がれた。
優しいキスに、涙が止まる。
いたずらっぽく笑った大和が、唇を重ねる。
強く抱き寄せられて、舞い落ちる桜の花びらのように、
何度も大和の温もりが、私の唇を包み込んだ。
7年前と同じように……
薄紅色の花びらは、私たちを包み込んでくれていた。
―END―
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。