――7年前――
大和が私のことを想ってくれてるなんて、全然気づかなかった。
突然の告白はとても驚いたけれど、決して嫌だとは思わなかった。
でも……
頭を下げると、一拍おいて大和がため息をもらした。
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あの時、いつも自信に満ちた大和の瞳は、わずかに揺れていた。
思い出すと、胸が痛くなる。
だけど、えりちーが帰り道で告白することを知っていた私は、
大和の気持ちを受けるわけにはいかなかった。
いたたまれずに俯いていると……、
見覚えのあるペンが床に転がっていた。
教室を見回しても、先生の姿はどこにもない。
冷やかされた居心地の悪さもあって、私は先生を捜すために教室を出た。
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教員室に戻ったのかもしれないけど……、
でも、私の頭に浮かんだのは『あの場所』だった。
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重い扉を開けて、外に出る。
ここは、市之瀬先生が煙草を吸う時に使っていた屋上。
先生のことが大好きで、
私は、よく数学の質問をしにここまで追いかけてきた。
奥へ行くと思った通り、煙草を手に市之瀬先生がフェンスにもたれていた。
先生のそばへ駆け寄り、ペンを渡す。
得意げに言うと、先生が胸元にペンを入れながら薄笑みを浮かべる。
意味が分からなくて、きょとんとしてしまう。
先生が一歩、距離を詰めた。
唇の右端を吊り上げたその笑顔に、鼓動が大きく跳ねる。
そのまま、先生は私の横を通り過ぎていった。
鼓動が速くなって、その場から動けない。
まだ煙草の香りが残る屋上でぼんやりしていると、足音が近づいてきた。
振り返るより先に、手首をつかまれる。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!