『君僕〜instinct〜』
*1*
「えっ?、ウチの中島、、、ですか?」
アポ無しでやってきた、取引先の方。
急に来たくせに内緒の話しだって言うから、音漏れなしの会議室に通した。
てっきり、トチ狂って私に告白でもしに来たのかと思ったんだけど…
違ったか。
〇「で?、なによ?」
取引先の方と言っても、、、
この人は、大学時代の元彼。
「こないだの、国際フォーラムでの展示会の時にさぁ…」
〇「あ〜、ウチの中島にマネキンさせた、あのイベント、、か…」
*2*
あの日。
大盛況となった私達のブースは、整理券さえも完売してしまうほど。
大きな手応えを残して終わった展示会で…
終わった後のビールが、最高だった!
______
……ん??…だれ??
カーテンの隙間からの朝日が眩しくて、目を細め手をかざした。
隣で、寝息を立てて眠る男の顔を、寝ぼけ眼で確認した。
腕枕の至近距離だったせいか、
頭はまだ起きていなかったのか、
はたまた、、、二日酔いなのか…
ゆっくりと意識が確立していくと、
だんだん…霞んだ視界がハッキリしていき…
私は息を呑んだ!
〇「エッ///、、どうしてっ!」
慌てて声にしてしまい、彼を起こしてしまった。
裕「……ん、、あぁ、、おはようござい…ます…」
そう呟きながら、
目をこすり、ふぁ〜〜っと あくびをする彼。
*3*
っ///!!!
やだっ!自分を隠したい!!!
シーツを握りしめ起き上がると、彼も起き上がった。
肌に触れる彼の温度。
こういうの、久々すぎて、、、
私、バレそう…
彼の綺麗な指先が、私のアゴを撫でると、
裕「、、おはようのキス…しません?」
あぁ、、、もう無理ッ///!!!
ボムっっっ!!!
私は、側にあったフワッフワの枕を彼の顔に押し当てた!
〇「一回 ヤったくらいで、チョーシにの・ん・な!」
私はベッドから飛び出た!
どんだけ酔ってたのか、どんな脱がされ方をしたのか…
散々に脱ぎ散らかされた服を、あちこちと探しながら集める。
裕「記憶ないんですか?、、1回や2回じゃないですよ??」
〇「ッ///、、うっさい!!!」
着替えを抱え、バタンッ!と洗面所の扉を閉めた。
*4*
鏡に映る、自分の姿…
情けなかった。
扉の向こうから「〇〇さん?」と呼びかける声がセツナくて…
やるせない想いが、胸を刺した。
裕「ダメですか?、俺じゃぁ?」
良いとか悪い、、それ以前の問題だ。
〇「ダメ。」
着替えながら、答えた。
裕「どうしてですかぁ!?、、カラダの相性は、めっちゃんこ良かったですよ?」
〇「そ、それはっ//」
確かに良かったのだろう。
じゃなきゃ、二日目まで残るほど酔っていたのに、何度もなんて…
イヤイヤイヤイヤッ!
なに考えちゃってるの、私??
あり得ないから!!!
ガチャッ!!!
勢いよく扉を開けると、まだ何も着ていない彼。
〇「、//、、良かったかどうかは、男が決める事じゃないっ!!!」
私は荷物を持ち、ホテルを出た。
______
*5*
あの日の事は、無かった様に過ごしていた。
突然の取引先からの提案に、
やっぱりこれが正解だったんだと、安堵した。
「お嬢様は、今夜にでもお会いしたいと…」
〇「そう。分かった。」
「〇〇さぁ??、、男できた?」
〇「はぁ?ケンカ売ってるの?」
「や、キレイになったなと思ってな//」
〇「奥さんと別れて、人肌恋しいせいでしょ?、、元カノに揺れてるようじゃぁ、成長してない証拠ww」
「お前、変わんねぇなぁ?」
〇「どっちよ?キレイになったって、ウソなの?w」
「〇〇の、そういうとこ、、、好きだったな…」
〇「やめてよ〜昔話ししに来たんじゃないでしょ〜?w」
「そうだな……今でも好きだからな…」
〇「、、えっ…」
*6*
「そうだな……今でも好きだからな…」
〇「、、えっ…」
彼は、、、肩を抱き寄せ…
キスをした。
彼のキス、、、
好きだったな…
思い出していた。
あの頃を…
ガチャッ!!!
裕「失礼しますっ!」
はっ//!!!
私達は、咄嗟に離れたけど…
恐らく、、、見られていただろう。
お互いの引きつった顔が、それを語っていた。
______
〇「では今夜、、18時に。」
取引先の人、つまり元彼をエレベーターホールまでお見送りした。
エレベーターが閉まり、元彼が居なくなると、一気に問い詰められた。
裕「なんなんですか?さっきの?」
〇「中島には関係ない。」
裕「…関係、ない……?」
*7*
裕「そ、それにっ、どうして俺が接待??、、社長令嬢だかなんだか知らないけど、俺そーゆーの、興味ないですからっ!」
〇「何が不満なのよ?!、、社長令嬢?最高じゃないの〜、、綺麗な人らしいわよ〜」
そう、小馬鹿にした様に言い残し、部署へ戻ろうとすると、
ドンッッッ!!!
二の腕を掴まれ、壁に追いやられた!
ッ///!!!
か、壁ドンってやつだ…//
裕「俺の気持ち知ってて、どうして…」
壁にヤツ当たった勢いなんて、一瞬で抜けたように話す。
そうやって、弱さを見せれば、私の気持ちが揺れるとでも思ったの?
〇「バカなの?、、ゴージャスな未来が待ってるのよ?逆玉よ?、、、掴まないなんて、バカ以下だわ!」
*8*
ずっと思ってた。
この若者の、輝かしい未来を、私なんかが摘み取ってしまってはイケない
ビジュアルだけでも素敵なのに、仕事も出来て…
こんな優しくて、
こんな お茶目で、
こんな大らかで、
こんな甘えんぼうで…
人懐っこくて、
幼い頃 飼っていた、ラブラドールみたい。
こんなにも可愛くてしょうがない後輩くんを…
どうにかして、ワンランク上の人間にしてあげたいんだ。
〇「今後、私の事を考えるのは辞めなさい、!、、、あなたは、、そんな人間じゃないの。」
勝ち組っていうやつよね。
私には、なれない。
だからこそ…
______
*9*
〇「中島?時間だから、それ終わらせて!」
裕「嫌です。」
〇「却下。行くわよ!」
私が歩き出すと「あぁ もぉッ!!!」とキレながらも、足元のカバンと上着を持って、軽快な小走りで追いついてきた。
私は意地悪だ。
絶対 来ると分かっていて、ワザと冷たくする。
歩いている後ろから、ぶつぶつ愚痴ってるのが聞こえる。
けど、それも全部却下。
私は、使命を持って、今夜の接待に挑むんだ。
今は嫌でも、後になって分かるはずだから。
指定場所までのタクシーの中。
彼の小言が続く。
全部 聞いてるけど、全部受け流してる私。
*10*
裕「何で、時間無かったのに化粧直し してきたんすか?」
〇「相手に失礼の無いように、身だしなみ。」
裕「どうせ、あの人に会えるからでしょうけど、、」
被害妄想が過ぎる…
こういう所が、お子ちゃまで困るんだよね…
〇「元彼。あの人、奥さんと別れたばかりで、気が動転してるの。、、今日のは事故よ、事故。」
裕「元彼…って、、、そういのがイチバン怖いんだよな……あっさり元サヤに戻ったりすんだよ…」
フテクサレがひどい。
私は今夜の接待の場が不安になってきた。
〇「いい??、今夜は会社と会社の接待なんだからね?、アンタの態度で、今後の売り上げが変わってくる。」
〇「私は、アンタを見越して連れてきたの。やる気 無いなら、私に辞表出して?!、、出さないなら、いつまでも愚痴って無いで、大人になりなさい!」
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!