次の日
そう言って、暁は外へ向かって走っていってしまった
紅丸は何故自分がこんなに苛ついているのかも、響に対してこんな酷く当たっているのも。
その頃響
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珍しく大きな声を出した。
当然だ、なんせ『あの男』が犯人なのだから。
昔、響に異常に執着していた男の子がいた。
自分のものにしたがり、迷惑ばかりかけられた為距離を置いていたし、なんせ響の兄が毎度カバーをしてくれていたのだ。
小薔薇川宅
パリンッ、奥で音がする。
何かが割れた音、というより、割った音だった
好きだった
嫌われたくない
叶うなら
手を繋いで欲しい
抱き締めて欲しい
キスもして欲しい
だけどもう叶わない
突き放された
彼奴の性で
これ以上する事が見つからない
愛されたかった
側に、いて欲しかった
もう少しだけでいいから
また、私と一緒に話して欲しかった
下で話し声がする。
声に耳を傾ける事しか出来ない。
寂しく毛布に体を巻きながら、涙を流す事しかできない。
そんな自分が惨めで、仕方なかった。
このまま、会えないままなのだろうか
そんなのは嫌だ
心底そう思った。
ドアノブはすぐそこにあるというのに
触れることが出来なかった
ガチャリという音で、また分かりあえるかも知れないのに
彼には届かないだろうこの思い、伝えきれていない思いを火に変えて、燃やし尽くせたらどれだけ楽だろう
どうにも止められない涙が
彼女の目を赤く腫らす。
ただ一冊の本をめくり、本に涙の跡を残した。
その頃…。
ガチャ
フイと、顔を背ける紅丸
そう言って、彼女は駆け出す。
皆の静止を拒んで走った。
気づけば、また浅草に戻っていた
慣れ親しんだこの街で、さよならを告げてしまいたい
そう思って走っていたからだ
皆の視線がこちらに集まる
『必要とされるなら、それでもいいかもしれない』
彼女はそう感じた。
ここでは、私は必要とされてない
嫌われてばかりなら、嫌わないと誓ってくれた潤についていったら、嫌われない。
そして、差し出された手に、響は手を伸ばしたその時──。
紅丸がその手を遮った。
その次に、こう告げた
そう言って潤は何処かに消えてしまった
先程の告白を受け入れようとしない響。
そんな彼女に痺れを切らした紅丸は大胆な行動に打って出た。
チュッ…。
町全体が揺らぎそうな声で皆が騒ぐ。
凄い戸惑いようだ
そう言って、彼の頬に唇を当てた。
この町で一番の幸せ者だろう、彼女は。
辛い過去を乗り越え、幾度と壁にぶつかってもなお生きた。
死してなお生きる者は一つの愛を手にいれたのであった。
第一章─思い出編─
完結
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。